ほり)” の例文
「ですが……」と、娘もその時は、だいぶ度胸がすわって来たものでしょう、押し返して、ほりのふかい面だちを真面まともに白くふり向けて
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いあんばいに、天人の彫りは無事で、げた箇所ところ波形なみがただけですが、その波形はほりでなくって、みんな、薄い板が組み合せてあるのです。
朱絃舎浜子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
金襴もぢくほり和物わものらしく、切り離した刄の跡は、ひどく亂暴でなゝめになつてをりますが、刄物ははさみではなく、鋭い切出しか匕首などの樣子です。
やまいを得るまえに最近仕上げた陣太刀づくりの大小を手にとり赤銅にむら雲のほりをした刀の柄をはずして、その中心なかごに後半の火密かみつを巻きこめ
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
四辺あたりを見れば腹の立つは、伊之助と若草の比翼紋の附いた物ばかり、湯呑から烟管のほりから烟草入から、そばにころげて有る塗枕ぬりまくら金蒔絵きんまきえの比翼紋を見て
車を急に止めさせて降りた。軒の低い古家で、右の片隅に貧しい飾り棚を設け、硝子ガラスごしに様々なほりのある金具かなぐが並べてある。どれもほこりでぼんやりしている。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
蒔絵まきえの金銀のくもりを拭清ふききよむるには如何にせばよきや。堆朱ついしゅの盆香合こうごうなどそのほりの間の塵を取るには如何にすべきや。盆栽の梅は土用どよううち肥料こやしやらねば来春花多からず。
矢はずぐさ (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
(下に図するこれなり)きざみたる人のかしらを左りにむかせ、そのしもに五字をほりつけしは、是より左り蛾眉山下橋がびさんかのはしなりと人にをしゆる標準みちしるべなりとかたられき。是にて義理ぎり渙然くわんぜんたり。
ほりと云い、地金じがねと云い、見事な物さ。銀の煙管さえ持たぬこちとらには見るも眼の毒……」
煙管 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
その家の重たい、ほりのある扉のそばには、「法律顧問官ライネル」という名が読まれた。
道化者 (新字新仮名) / パウル・トーマス・マン(著)
たゞこしらつき貳尺四寸無名物むめいものふち赤銅しやくどうつるほりかしらつの目貫りよう純金むくつば瓢箪へうたんすかぼりさや黒塗くろぬりこじりぎん
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
そこに方丈ほうじょうの壇をむすび、何かの符を書いてそれをくと、たちまちに符の使い五、六人、いずれも身のけ一丈余にして、黄巾こうきんをいただき、金甲きんこうを着け、ほりのあるほこをたずさえ
世界怪談名作集:18 牡丹灯記 (新字新仮名) / 瞿佑(著)
さりとてはしからずうるわしきまぼろしの花輪の中に愛嬌あいきょうたたえたるお辰、気高きばかりか後光朦朧もうろうとさして白衣びゃくえの観音、古人にもこれ程のほりなしとすきな道に慌惚うっとりとなる時、物のひびきゆる冬の夜
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
為高麗国在陣之間敵味方閧死こうし軍兵皆令入仏道也といふ文字がほりつけてあつた。
仏法僧鳥 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
ほりたくみなること、ひとつくるべきものにあらず。いざや、とこれかんとするに、ゆるやはらかに、ほそしろくして、しかくことあたはず。頭領陽知春とうりやうやうちしゆんせいしていはく、わいそれせと。
唐模様 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
伸びあがって光枝が見ていると、その額はずいぶん大した彫物細工ほりものざいくであった。額の奥から、一番前に出ている陽明門のひさしまで、奥行おくゆきが二寸あまりもあって、極めて繊細なほりがなされてあった。
什器破壊業事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
角ばってはいるが、北国人らしいおもながの、ほりのふかい顔には、堅い自信と張りきった力感があふれている。それがいま、こみあげてくる微笑のために、誇りとよろこびとで輝くようにみえた。
花も刀も (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
友「左様で、お金物はこれは目貫物めぬきもので飛んだ面白いもので、さく宗乘そうじょうと申しますが、銘はございませんが宗乘と云うことでございます、これは良いほりでげす」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
(下に図するこれなり)きざみたる人のかしらを左りにむかせ、そのしもに五字をほりつけしは、是より左り蛾眉山下橋がびさんかのはしなりと人にをしゆる標準みちしるべなりとかたられき。是にて義理ぎり渙然くわんぜんたり。
中へ入って見ると、壁紙の模様から、カーテンの刺繍から、欄間の欄干のほりまでことごと向日葵ひまわりで、立派な応接間には、有名な書家の描いた、真物ほんもの向日葵ひまわりの絵までけてあります。
向日葵の眼 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
誰もあの見事なほりのふっくらした金具をもとめはしなくなった。安ものの薄手のへなへなな品でなくば売れはしない。正直な仕事はここでも貧乏を招く。だが正しい品物はいつか光る。
思い出す職人 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
鬼と見て我を御頼おたのみか、金輪こんりん奈落ならく其様そのような義は御免こうむると、心清き男の強く云うをお辰聞ながら、櫛を手にして見れば、ても美しくほりほったり、あつさわずか一分いちぶに足らず、幅はようやく二分ばか
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
今かく中古ちゅうぶる草臥くたびれても同一おなじにおいの香水で、おっかけ追かけにおわせてある持物を取出して、気になるほど爪の伸びた、湯がきらいらしい手に短いのべの銀煙管ぎせる、何か目出度い薄っぺらなほりのあるのを控えながら
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
奇妙なほり指環ゆびわまで贈物として僕によこしたじゃないか。
恐しき通夜 (新字新仮名) / 海野十三(著)
鱗形うろこがたほりをした黄楊つげの箱から
鶴のほりと聞より治助大によろこ宜々よい/\それだぞ賣人はたれだ/\十兵衞まちなせへよ三間町の虎松とらまつに相違は無いとて原田はらだの前にいでの脇差は淺草三間町の虎松と申す者より買入しに相違さうゐ御座りませぬといへば原田しからば御用はない引取ひきとれと申渡すに十兵衞は有難ありがたしと家主諸共もろとも引取ひきとりける斯て原田大右衞門コレかう藏此治助を
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
くだんの石にほりつけありしと古書こしよに見えたるをよりところとして、渡唐とたうの 神影しんえいを画きつたへたるなり。
一日二晩絶間たえまなく感心しつめて天晴あっぱれ菩薩ぼさつと信仰して居る御前様おまえさまを、縛ることは赤旃檀しゃくせんだん飴細工あめざいくの刀でほりをするよりまだ難し、一昨日おとといの晩忘れて行かれたそれ/\その櫛を見ても合点がてんなされ
風流仏 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
くだんの石にほりつけありしと古書こしよに見えたるをよりところとして、渡唐とたうの 神影しんえいを画きつたへたるなり。