孤家ひとつや)” の例文
米と塩とは尼君がまちに出できたまうとて、いおりに残したまいたれば、摩耶まやも予もうることなかるべし。もとより山中の孤家ひとつやなり。
清心庵 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
更に一軒山蔭の孤家ひとつやを借り上げ、それも滿員といふ形勢で、總人口四百内外の中、初發以來の患者百二名、死亡者二十五名、全癒者四十一名、現患者三十六名
赤痢 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
前刻さっきも前刻、絵馬の中に、白い女の裸身はだかみを仰向けにくくりつけ、膨れた腹を裂いています、安達あだちヶ原の孤家ひとつやの、ものすごいのを見ますとね。
神鷺之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
初発患者が発見みつかつてから、二月足らずのうちに、隔離病舎は狭隘を告げて、更に一軒山蔭の孤家ひとつやを借り上げ、それも満員といふ形勢すがたで、総人口四百内外の中、初発以来の患者百二名、死亡者二十五名
赤痢 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
深山しんざん孤家ひとつや白痴ばかとぎをして言葉ことばつうぜず、るにしたがふてものをいふことさへわすれるやうながするといふはなんたること
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
時に雨もよいの夏雲の閉した空は、星あるよりも行方はるかに、たまさか漏るる灯の影は、山路なる、孤家ひとつやのそれと疑わるる。
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまひとおそるゝ、名代なだい天生峠あまふたうげして、あゝつたるゆきかな、と山蛭やまひるそではらつて、美人びじん孤家ひとつや宿やどつたことがある。
麻を刈る (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
修行者しゅぎょうじゃが、こんな孤家ひとつやに、行暮ゆきくれて、宿を借ると、承塵なげしにかけた、やり一筋で、主人あるじの由緒が分ろうという処。
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
かつしやい、孤家ひとつや婦人をんなといふは、もとな、これもわしにはなにかのえんがあつた、あのおそろし魔処ましよはいらうといふ岐道そばみちみづあふれた往来わうらいで、百姓ひやくしやうをしへて
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
と平べったい、が切口上で、障子を半分開けたのを、孤家ひとつや婆々ばばあかと思うと、たぼの張った、脊の低い、年紀としには似ないで、くびを塗った、浴衣の模様も大年増。
第二菎蒻本 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ちょうどわしが修行に出るのをして孤家ひとつやに引返して、婦人おんな一所いっしょ生涯しょうがいを送ろうと思っていたところで。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いまそのこぼれるにつけても、さかさに釣られた孤家ひとつやの女の乳首が目に入って来そうで、従って、ご新姐の身の上に、いつか、おなじ事でもありそうでならなかった。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
親仁おやじがその時物語って、ご坊は、孤家ひとつや周囲ぐるりで、猿を見たろう、ひきを見たろう、蝙蝠こうもりを見たであろう、うさぎも蛇も皆嬢様に谷川の水を浴びせられて畜生ちくしょうにされたるやから
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
たちまち身が軽くなったように覚えて、わけなくうしろに従って、ひょいとあの孤家ひとつや背戸せどはたへ出た。
高野聖 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
丁度ちやうどわし修行しゆぎやうるのをして孤家ひとつや引返ひきかへして、婦人をんなと一しよ生涯しやうがいおくらうとおもつてところで。
高野聖 (新字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
何でもその孤家ひとつやの不思議な女が、くだんの嫉妬で死んだ怨霊の胸をあばいて抜取ったという肋骨あばらぼねを持ってぜん申しまする通り、釘だの縄だのに、のろわれて、動くこともなりませんで
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
段々孤家ひとつやの軒が暗くなって、鉄板で張ったようなひさしが、上から圧伏おっぷせるかと思われます……そのまま地獄の底へ落ちてくかと、心も消々きえぎえとなりながら、ああ、して見ると
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
家と家とがあいを隔て、岸をいても相望むのに、黒門の別邸は、かけ離れた森の中に、ただ孤家ひとつやの、四方へおおきなる蜘蛛くものごとく脚を拡げて、どこまでもその暗い影をうねらせる。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
唯今ただいま私が不束ふつつかに演じまするお話の中頃に、山中孤家ひとつやの怪しい婦人おんなが、ちちんぷいぷい御代ごよ御宝おんたからと唱えて蝙蝠こうもりの印を結ぶ処がありますから、ちょっと申上げておくのであります。
湯女の魂 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
孤家ひとつやともしびかげとても、ちたの、まぼろし一葉ひとはくれなゐおもかげつばかりのあかりさへい。
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
富藏とみざううたがはないでも、老夫婦らうふうふこゝろわかつてても、孤家ひとつやである、この孤家ひとつやなることばは、昔語むかしがたりにも、お伽話とぎばなしにも、淨瑠璃じやうるりにも、もののほんにも、年紀とし今年ことし二十はたちになるまで、民子たみこみゝはひつたひゞきに
雪の翼 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
芳年よしとしの月百姿の中の、安達あだちヶ原、縦絵二枚続にまいつづき孤家ひとつやで、店さきには遠慮をするはず、別の絵を上被うわっぱりに伏せ込んで、窓の柱に掛けてあったのが、暴風雨あらしで帯を引裂いたようにめくれたんですね。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
アツといつて、むつくとき、外套ぐわいたうあたまから、硝子戸がらすどへひつたりとかほをつけた。——これだと、暗夜あんややまも、朦朧もうろうとして孤家ひとつやともしびいてえる。……ひとつおおぼあそばしても、年内ねんない御重寶ごちようはう
雨ふり (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
小雨こさめの色、孤家ひとつやうちも、媼の姿も、さては炉の中の火さへ淡く、すべ枯野かれのに描かれた、幻の如きあいだに、ポネヒル連発銃の銃身のみ、青くきらめくまで磨ける鏡かと壁をて、弾込たまごめしたのがづツしり手応てごたえ
二世の契 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
我児わがこ危い、目盲めしいたか。罪に落つる谷底の孤家ひとつやの灯とも辿たどれよ。
草迷宮 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
台所のともしびは、はるか奥山家おくやまが孤家ひとつやの如くにともれている。
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)