おわ)” の例文
仏教をたっとぶ市民達はその仏教の教主たるところの噠𡃤喇嘛その人を生仏いきぼとけとして尊信し、その喇嘛のおわす宮殿を神聖不可侵おかすべからざる場所とした。
喇嘛の行衛 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おお、御身は女性にょしょうにておわするな。何とて斯様かようなる山中へ、女性の身一人にておわせしぞ。まして男の装いしたる有様こそ怪しけれ」
大菩薩峠:22 白骨の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「婦人は美しいもの強いものにかれると申します」宙野が慰めるように云った。「詰るところ若殿のおひとがらと御美男におわすのが」
若殿女難記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「人違いじゃ。人違いして斬りつけたのでおざる。——まったく、夜目の眼違い。手前の意趣ある者と、余りようお姿が似ておわすので」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お通の心は世に亡き母の今もその身とともにおわして、幼少のみぎりにおけるが如くその心願を母に請えば、必ずかるべしと信ずるなり。
妖僧記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
コノ夜逆旅げきりょニ来ツテ寝ス。余コレニイツテ曰ク二親おわス。汝ノ来ルハ何ゾヤ。曰ク僕大夫たいふヲ送ツテ至ル。今二親ニまみユ。実ニ望外ノ幸ナリ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
源右衛門『嫁女、歎くまいぞ。そなたが抱いておるは、そりゃ源兵衛の抜け殻。魂は移って、これ、此処におわします』(顎にて背中の影像を示す)
取返し物語 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
今更いまさら申上もうしあぐるまでもなく、すべての神々かみがみうえには皇孫命様こうそんのみことさまがおひかえになってられます。つまりこの御方おかた大地だいち神霊界しんれいかい主宰神しゅさいしんおわしますので……。
今和主の来りしこそさちなれ、大王もさこそ待ち侘びておわさんに、和主も共に手伝ひて、この下物さかなを運びてたべ。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
そうして雨の中に悽愴せいそう粛然と明けて行く二重橋を拝しまして、大自然の心のうちにある最も崇高な、清浄な心の結晶が昔ながらにおわしました事を感謝しました。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
すたれたる世なりといえども、一人や、二人の義人はあろう。それでいい、一人もいなくとも、平山先生がおわそう
三人の相馬大作 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
しかるに、在来の社殿、音無おとなし川の小島におわせしが、去る二十二年の大水に諸神体、神宝、古文書とともにことごとく流失し、只今は従来の地と全く異なる地に立ちあり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
彼は首をげて血を以っておもてけがし髪を振り乱し、織田勢に紛れ込み、「御大将は何処いずこおわしますぞ」と探し廻って、信長のいるすぐ側迄来たところ、竹中半兵衛の長子久作これを見とがめ
姉川合戦 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
則ち攘夷は一国の大事なり、天皇は一国の最上位におわしますなり、その一国の最上位におわす天皇のみことのりにおいて、一国の最重事たる攘夷を命じ、下田条約を拒絶すべしと命じ、幕府これを奉ぜず。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
逆臣ぎゃくしん尊氏たかうじめられて、あめした御衣ぎょい御袖おんそでかわく間もおわさぬのじゃ」
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
きのうの春雨の名残なごりにや、父の墓標も濡れておわしき。
父の墓 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
参らせん親はおわさぬ新茶哉(昭和七年七月、渋柿)
柿の種 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
願わくは神われらと共におわしたまわん事を。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
しかもお犬様の源氏太郎様をお膝にお載せおわしますのじゃ。これでも止めだて致す気か? 本丸大奥に対しては閣老といえども指差しならぬ。
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
さはあれ業苦の浮世をのがれ、天堂におわ御傍おんそばへ行くと思えば殺さるる生命いのちはさらさら惜からじと、下枝は少しも悪怯わるびれず。
活人形 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
殿のおわした頃と違うて、日常、お伺いもかないませず、また、人間はいつの御対顔がいつの別れとも限りませぬ。どうぞお自ら御大切に遊ばしますよう
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
こんどこそ国民ぜんたいを統一し、正しく国家のおおみおやとしておわすところまでやり遂げなければならない。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
身共は京都におわします一品薬王寺宮いっぽんやくおうじのみや様の御申付おもうしつけによってこれまで参いった宮侍、吉岡鉄之進と申す者じゃ。
名娼満月 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
徳川を擁護ようごするのと、それを倒そうとするのとが、天子おわすところでみ合っている——その間にからまるのが攘夷じょうい。志士を気取って勤王を看板に、悪事を働く厄介者やっかいもの
さらにそのモー一つおくには、天照大御神様あまてらすおおみかみさまがおひかえになってられますが、それは高天原たかまがはら……つまり宇宙うちゅう主宰神しゅさいしんおわしまして、とてもわたくしどもからはかることのできない
久光公がおわさばこそ、かかる無惨の陰謀も企てられるが故に、久光公こそその大根おおね
南国太平記 (新字新仮名) / 直木三十五(著)
昔仏王舎城おうしゃじょうおわせし時、六群比丘、獅虎豹豺あぶらを脚に塗り象馬牛羊驢の厩に至る。皆その脂臭を嗅いで覊絆きはん托拽たくえい驚走す、比丘輩我大威徳神力ある故と法螺ほら吹き諸居士こじこれを罵る。
その間も彼は絶える暇なく「許すとのお言葉をくだされる、神のくにに属しまつる御一方」とは、いかなる御方おんかたおわしますぞや、それを求めそれを探した。
あさひの鎧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
八大神社はいうまでもなく、八つの神々を一つ地にまつったものだ。けれどもその中にも八幡様はおわさなかった。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……この不幸なくにがらに絶えず中心となっておわすのが天皇だ、誰が覇権を握ろうと、誰が政治を執ろうと、天皇だけはそれに関わりなく、つねに国民ぜんたいの中心に在す
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
こうして神や仏がおわしますこの世界に、人間が左様に自然の惨虐に苦しめられなければならないのはどうしたものでしょうかね、罪もとがもない生霊いきりょうが何千何万というもの、あっ! という間もなく
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
しかも涙ぐましき御忠誠におわしたことには、この乱国の中、四隣にいくさの絶え間もない中をも、すぐる天文十二年の頃には、この爺めを京へおつかわしあって
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
全く他に私心はござらぬ——諸君のためにそれがし計るに、東照神君の英霊のおわす駿州久能山に籠もられるこそ策の上なるものと存ぜられ申す。そこにて天下をうかがわせられい
開運の鼓 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「女の帝……奈良朝で女の帝におわすのは」
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「お上、いずれへおわします」
備前名弓伝 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
……だが、ようぞござった、幼顔おさながおはお互いに幾歳いくつになっても忘れぬもの、なつかしや……ご無事でおわしたの
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
……ヤキがまわったというものかな? それとも何かあらたかな物が、屋敷の中におわすからかな?
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
右大臣様の霊も、さすが致したと、御生前のおいつくしみも、お悔い遊ばすこともなくおわそう。
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
錦旗ひるがえらば、よろしく大義親を滅し、京師に馳せつけ、禁裏を守護し、誓って誤りあるべからず、扶桑ふそうは神国、皇統は連綿、万民拝すべきは一かたおわす、みかどを置いてあるべからざるなり
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「これは寧子どのでおわしたか。——いや今宵からは木下殿の御内室。改めて御祝儀な申そう」
新書太閤記:02 第二分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
江戸にいる老中田沼主殿も、信濃におわす冬次郎殿が、討って取ろうのご詮索、それゆえ一揆へ加担せぬとよ! ワッハハハッ、何を痴言! さようの痴言申そうより、命が惜しく罪着るが恐い
血煙天明陣 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「は……。あなたが、聖光院の御門跡でおわすか。お若いのう」と、おどろきの眼をみはった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
口の減らないじじいめが、何を痴事たわごとかしおる! 我が日本ひのもとは神国じゃ。神の御末みすえは連綿と竹の園生そのうに生い立ちおわす。海人あまが潮汲む浦の苫屋とまやしずまき切る山の伏屋ふせや、みなこれ大君おおぎみの物ならぬはない。
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
……そも、織田氏の御先祖様と申せば、越前丹生えちぜんにゅう氏神、織田つるぎ神社の神官におわしました。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「この御乗り物におわすお方を、何んと心得て雑言するぞ!」
紅白縮緬組 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「久々に、生きた御人にお目にかかるものかな。其許そこもとは、柳生兵庫殿にてはおわさずや」
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そこにおわすは島津家の一族、太郎丸殿でござるかな」
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「おそらく、行宮のまわりには、警固の武士が、夜すがら交代で見張っていましょう。高徳がさきに忍んで、おわす所を見とどけるまで、宮には、遠くにお身を潜めておいでなされませ」
私本太平記:05 世の辻の帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「天子おわす所、すなわち京都だ」
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
何ごとのおわしますかは知らねども——鳥の羽音までが人の世のものではなかった。
宮本武蔵:04 火の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)