冥途めいど)” の例文
だからもし冥途めいどから迎えにきたら、八十八を越してからいく。八十八を越してからまた使いがきたら、九十九までは留守と答えよう。
あの世へ向けて、冥途めいどの旅の一里塚を一ツ一ツ踏ませてくれる。そのあげく、ばッさりやりゃあ、なんの仕損じることがあるもんか
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さあ、行こう、何も冥途めいどへ連れて行くんじゃあないよ。謂わばまあ殿様のお手が着くといったようなものさ。どうして雀部やわし
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「なにもわしがしゃべったとて、そう驚くことはないじゃないか、これはせめて貴様たちの冥途めいどのみやげにと思って、聞かせてやったばかりよ」
怪塔王 (新字新仮名) / 海野十三(著)
と馬上にのび上がり、「返せ者ども、おくれて卑怯者ひきょうものの汚名をのこすな、元親みずから冥途めいどの先がけしようぞ、つづけ!」
だんまり伝九 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それらのことを考えると、お信はしょせん自分の望みは叶わないと覚悟して、叔父の清吉と相談の上で、若殿さまを冥途めいどの道連れにしたらしい。
だから百間氏の小品のやうに、自由な作物にぶつかると、余計よけい僕には面白いのである。しかし人の話を聞けば、「冥途めいど」の評判はくないらしい。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
先生の再婚の理由として「小供らの教育をたくする人を得て冥途めいどの妻の心を喜ばすために後の妻をもらったのである」
離婚について (新字新仮名) / 与謝野晶子(著)
かんげえてもあの時の気持ばっかりはわかりませんがね。多分、冥途めいどの土産……てえな気持で見ていたんでしょう。
人間腸詰 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
自分はもうこの世に何の思い残すところもない。一刻も早く冥途めいどに行って、可愛い京子に会い、二人の生涯をかけての大事業の完成を喜び合いたいばかりだ
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
取調べの町人は情けある人とて一夜の猶予ゆうよを与えられ候まま、父に手あつく仕えし上、暁け方眠りにつくを待ちてたまち、返す刀にて自らも冥途めいどの旅に上り候。
死なばもろともさ、乗合が一人残らず一緒に行くんでなけりゃ、冥途めいどの道が淋しくってたまらないよ
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
遂げさしては、却つて冥途めいどの障りとやらになるでせう。——その代り私は尼にでもなつて父さんにお詫びします。——若旦那を助けて上げて下さい。お願ひで御座います
冥途めいど飛脚ひきゃく」の中で、竹本の浄瑠璃じょうるりうたう、あの傾城けいせいに真実なしと世の人の申せどもそれは皆僻言ひがごと、わけ知らずの言葉ぞや、……とかく恋路にはいつわりもなし、誠もなし
霜凍る宵 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
摺流すりながす音もはゞか卷紙まきがみへ思ふ事さへ云々しか/″\かきつゞる身生命毛いのちげの筆より先へ切てゆく冥途めいどの旅と死出の空我身は今ぞ亡き者と覺悟をしても親と子がたゞ二人なる此住居然るを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
手前がまだ瓜作りをやっておりました時分、ふとした浮気心から云い交した娘がございました。と云いましても、名前も顔もはっきりとはとても浮ぶ瀬もない冥途めいどの河原。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
お言葉は有難ありがたいが、そのおなさけ冥途めいどへの土産。一両詮議せんぎの大事の時、生憎あいにくと一両ふところに持っているというこの間の悪さ。御一同が疑わずとも、このぶざまは消えませぬ。
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
『そうか。日本なら「冥途めいどの飛脚」だが、火星じゃ「天上の飛脚」でもるんだろう?』
火星の芝居 (新字新仮名) / 石川啄木(著)
ヴォワン・スチヴンス説にセマン人は以前黒焦くろこげにせる棒一本を毒蛇また虎の尸の上もしくは口の前に置き、あるいは木炭もて虎の条紋に触れ、冥途めいどで虎の魂が人の魂に近づくを予防す。
今、此の鼻缺けの、兎唇みつくちの、片耳のない夫を連れて冥途めいどへ行けば、それが父への何よりの土産みやげになる。生きて此の世に罪を重ね、不義の汚名を流すよりは、その方がしであろうものを。
冥途めいどからほとけ宿やどつたしるしだといつてかなら提灯ちやうちん墓地ぼちからけられるのである。おつぎは勘次かんじふところいくらかあたゝかにつたので、廉物やすものではあるが中形ちうがた浴衣地ゆかたぢこしらへてもらつた。
(旧字旧仮名) / 長塚節(著)
あの追放人おひはらはれ無頼漢ならずものんでゐるマンチュアに使つかひおくり、さるをとこふくめて尋常よのつねならぬ飮物のみもの彼奴あいつめにませませう、すればやがてチッバルトが冥途めいど道伴みちづれ。さうなれば其方そなたこゝろなぐさまう。
わたくしんだものとすれば、ここは矢張やは冥途めいどとやらに相違そういないであろうが
はたきする、夏の夜など、遠い/\冥途めいどから、人を呼びに来るやうな、ボウ、ボウと夢でも見るやうな声が、こんもりした杉の梢から、あたりの空気に沁み透つて、うつゝともなく、幻ともなく
亡びゆく森 (新字旧仮名) / 小島烏水(著)
もしくは浄瑠璃じょうるりの「冥途めいどの鳥」の、引続き以外の何物でもなかった。
あやうく声を立てるところだった。が、次の瞬間には頭から蒲団を被って掻巻かいまきの襟をしっかり噛み締めていた。身体じゅうの毛穴が一度に開いて、そこから冥途めいどの風が吹き込むような気持ちだった。
つま冥途めいどにさきだてひとあとにのこり、かそけきけふりさへ立かねたれば、これよりちかき五十嵐村いがらしむら由縁ゆかりものあるゆゑたすけをこはんとてこの橋をわたりかゝり、あやまちて水に入り溺死おぼれしゝたるもの也
「こんな品物、何用あって冥途めいどまで持参するつもりじゃった」
ヒ、あれをよく見ながら、畜生! おのれ、冥途めいどへゆけ!
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
ここまで、七町あまり、ニコともしないで、黙々といて来た城太郎であった。一歩一歩が、冥途めいどとやらへ近くなる気持なのだ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
著書「冥途めいど」一巻、他人の廡下に立たざる特色あり。然れども不幸にも出版後、直に震災に遭へるが為にあまねく世に行はれず。僕の遺憾とする所なり。
内田百間氏 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
時に、障子を開けて、そこが何になってしまったか、浜か、山か、一里塚か、冥途めいどみちか。船虫が飛ぼうも、大きな油虫がけ出そうも料られない。
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それとも、なき娘の幽魂が、冥途めいどをさまよい出て、夜の暗さにまぎれ、懐しい父に逢いに来たのであろうか。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
生きているうさぎだのにわとりだのには、冥途めいどゆきの赤札あかふだをぶら下げるだけですが、そのほかのは必ず頭のある魚を揃えたり馬肉の目方をはかって適当の大きさに截断し
爬虫館事件 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「わしは初めからこの白髪首をけている。この首一つで廻座の幾人かを冥途めいどさらっていければ安いものじゃ。相手の多いほど首の値打も増す訳じゃでの。そうであろう」
三十二刻 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
遂げさしては、かえって冥途めいどさわりとやらになるでしょう。——その代り私は尼にでもなって父さんにおびします。——若旦那を助けて上げて下さい。お願いでございます
胸の秘密、絶対ひみつのまま、狡智こうちの極致、誰にも打ちあけずに、そのまま息を静かにひきとれ。やがて冥途めいどとやらへ行って、いや、そこでもだまって微笑ほほえむのみ、誰にも言うな。
二十世紀旗手 (新字新仮名) / 太宰治(著)
この十文字でいちいちドテッ腹へ穴をあけて、冥途めいどへ道連れにしてやるまでのことだよ、断わっておくが、こう見えても、おいらは槍だけは一人前につかえるんだぜ、見る人が見たらわかるんだろうが
大菩薩峠:20 禹門三級の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
殺したは勘太郎にちがひないと思つては居れど彦兵衞の親類しんるゐでも有るならば格別かくべつ滅多めつたな人にははなしも出來ず可愛かあいさうに彦兵衞はうかみもらず冥途めいどまよつて居るならんと彦三郎が此所に居るとも知らずうはさして行過ゆきすぎるを
大岡政談 (旧字旧仮名) / 作者不詳(著)
「さ、この一太刀で冥途めいどへ行けっ!」
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
三途まで奈落へして、……といって、自殺をするほどの覚悟も出来ない卑怯ひきょうものだから、冥途めいど捷径ちかみちの焼場人足、死人焼しびとやきになって、きもを鍛えよう。
卵塔場の天女 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
(われは、閻王奪魂だっこんの使いなり。一門の弓矢も、金銀珠玉も、冥途めいど無常の迎えには塵ぞかし。う疾う立ち候え)
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この頃内田百間うちだひやくけん氏の「冥途めいど」(新小説新年号所載)と云ふ小品を読んだ。「冥途」「山東京伝さんとうきやうでん」「花火」「くだん」「土手どて」「豹」とうことごとく夢を書いたものである。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
「有難え。庄兵衛どんの血を、おいらの血で洗ったのだ、これで半太郎どんとお信の仲も、さっぱりと浄められるだろう——あとは、冥途めいどで庄兵衛どんに詑びを云うだけよ」
無頼は討たず (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
あツと顏見合はせる一座の中へ、月代さかやきひげも伸び放題乍ら清らかな紋服に着換へた林太郎は、細々とした自分の影を踏んで、——冥途めいどを行く亡者もうじやのやうに靜かに進み出たのです。
「ああ、それでは——それでは、やっぱりここは冥途めいどだったんですか」
火葬国風景 (新字新仮名) / 海野十三(著)
冥途めいどにいなさる神祖に対して
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
所々ところ/″\で、——釣臺つりだいいてくれました主人あるじこゑけてをしへますのを、あゝ、冥途めいどみちも、矢張やつぱり、近所きんじよだけはつたまちとほるのかとおもひました。
浅茅生 (旧字旧仮名) / 泉鏡花(著)
「汝こそ、戸まどいして、これに帰って来る愚をませ。あれみろ、城頭高くひるがえっているのは、蜀の旗か、魏の旗か、冥途めいどのみやげによく見てゆけ」
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あッと顔見合せる一座の中へ、月代さかやきひげも伸び放題ながら清らかな紋服に着換えた林太郎は、細々とした自分の影を踏んで、——冥途めいどを行く亡者もうじゃのように静かに進み出たのです。