黍殻きびがら)” の例文
田舎で使ひ馴れた身藁みごや、黍殻きびがらの手箒などとは勝手が違つて、先の方が妙に手応てごたへがなかつたりして、どうもうまく使へなかつた。
世の中へ (新字旧仮名) / 加能作次郎(著)
横四、五尺、両側は三尺足らずの屋台で、障子のような囲いをして、黍殻きびがらのようなものを横に渡したのに、簪が一杯刺し並べてあります。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
三方崩れかかった窪地の、どこが境というほどのくい一つあるのでなく、折朽おれくちた古卒都婆ふるそとばは、黍殻きびがら同然に薙伏なぎふして、薄暗いと白骨に紛れよう。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
余の幼き時に僅かに記憶して居るのは、これと少し違つて黍殻きびがらに赤紙の着物などを着せて人形として、それを板の上に沢山並べるのであつた。
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
南の島では黍殻きびがらつかねてこしらえた松明たいまつを、根屋の神にさしあげますと海にほうりこむと、ちょうどものが不足で困っていたところだったと非常によろこばれたという話もあるが
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
葉が落ちかけて居るけれど、十月の熱をしのぐには十分だ。ここへあたりの黍殻きびがらを寄せて二人が陣どる。弁当包みを枝へ釣る。天気のよいのに山路を急いだから、汗ばんで熱い。着物を一枚ずつ脱ぐ。
野菊の墓 (新字新仮名) / 伊藤左千夫(著)
わかものの畠の恋は黍殻きびがらをたばかされなと風ふきしかな
小熊秀雄全集-01:短歌集 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)