鰥暮やもめぐら)” の例文
近頃は義兄の荻野左仲のところにも居憎くなつたと見えて、食扶持くひぶちだけを貰つて、ツイ屋敷外の長屋に、鰥暮やもめぐらしの氣樂さを樂しんで居るのでした。
どの寺にも寄食人かかりゅうどを息詰らす家族というものがあった。最後に厄介になったのは父の碁敵であった拓本職人の老人の家だった。貧しいが鰥暮やもめぐらしなので気は楽だった。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
老人は、鰥暮やもめぐらしの喬生が夜になると何人だれかと話しでもしているような声がするので不審した。
牡丹灯籠 牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
比良野貞固さだかたは妻かなが歿したのち、稲葉氏から来た養子房之助ふさのすけと二人で、鰥暮やもめぐらしをしていたが、無妻で留守居を勤めることは出来ぬと説くものが多いので、貞固の心がやや動いた。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
是より度々たび/\此のうちへ丹治親子が遊びに参りますると、丹治も年四十五歳なれども鰥暮やもめぐらしでございますし、おかめも夫角右衞門が亡りまして未だ三十七という年で、少し梢枯すがれて見ゆれど
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
近頃は義兄の荻野左仲のところにも居にくくなったとみえて、食い扶持だけを貰って、ツイ屋敷外の長屋に、鰥暮やもめぐらしの気楽さを楽んでいるのでした。
毅はそれから金陵へ移ったが、鰥暮やもめぐらしでは不自由であるから、范陽はんようの盧姓の女を迎えた。見るとその女の顔が洞庭の竜女に似ていた。毅は昔のことを思いだして女に竜女の話をして聞かした。
柳毅伝 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
すべてを過去の罪障のなす業とあきらめた病主人は、罪障消滅のためにも、一つは永年の恩義にむくゆるため、妻を失ってしばらく鰥暮やもめぐらしでいた鼈四郎べつしろうの父へ、せめて身の周りの世話でもさせたいと
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
女は毎晩のように喬生のもとへきて、天明になって帰って行った。喬生の家と壁一つ隣に老人が住んでいた。老人は鰥暮やもめぐらしの喬生が夜になると何人たれかと話でもしているような声がするので不審した。
牡丹灯記 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)