高粱こうりょう)” の例文
早速用意をして大重君をれて出て行った。余はただつくねんとして、窓の中に映る山と水と河原と高粱こうりょうとを眼の底に陳列さしていた。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
土手や並木や高粱こうりょう畑の陰を伝わって、裏道から十四、五町の道程を、白川の淵のある旧市場の方へと息もつかずに走った。
馬は、きずの痛みでうなっている何小二かしょうじを乗せたまま、高粱こうりょう畑の中を無二無三むにむさんに駈けて行った。どこまで駈けても、高粱は尽きる容子ようすもなく茂っている。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
幸に大抵の民家には大きいかめが一つ二つは据えてあるので、その甕を畑のなかへ持ち出して、高粱こうりょうを焚いて湯を沸かした。満洲の空は高い、月は鏡のように澄んでいる。
風呂を買うまで (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この河原かわらの幅は、向うに見える高粱こうりょうはたけまで行きつめた事がないからどのくらいか分らないが、とにかく眼がたいらになるほど広いものである。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
十分ほど前、何小二かしょうじは仲間の騎兵と一しょに、味方の陣地から川一つ隔てた、小さな村の方へ偵察ていさつに行く途中、黄いろくなりかけた高粱こうりょうの畑の中で、突然一隊の日本騎兵と遭遇した。
首が落ちた話 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
遼陽の攻撃戦がたけなわなる時、私は雨の夕暮に首山堡しゅざんぼうの麓へ向った。その途中で避難者を乗せているらしい支那人の荷車に出逢った。左右は一面に高粱こうりょうの畑で真中まんなかには狭い道が通じているばかりであった。
二階から (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
そうして軌道の両側はことごとく高粱こうりょうであった。その大きな穂先は、眼の届く限り代赭たいしゃで染めたように日の光を吸っている。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
もう高粱こうりょうの青んだ土には、かすかに陽炎かげろうが動いていた。
将軍 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)