靖国やすくに)” の例文
愕然がくぜんとして文三が、夢の覚めたような面相かおつきをしてキョロキョロと四辺あたり環視みまわして見れば、何時いつの間にか靖国やすくに神社の華表際とりいぎわ鵠立たたずんでいる。
浮雲 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
二十年ほど前に余が始めて東京へ来て靖国やすくに神社を一見した時の感じを思ひ起して見ると、ほかの物は少しも眼に入らないで
病牀六尺 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
五日ごろから春の七草ななくさ、すなわち小学校の冬季休業のあいだは、元園町十九と二十の両番地に面する大通り(麹町三丁目から靖国やすくに神社に至る通路)
綺堂むかし語り (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
秋、招魂祭で九段くだん靖国やすくに神社が、テント張りの見世物で充満している、ある昼過ぎのことであった。
猟奇の果 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
観艦式の明くる日が、大政翼賛会の発会式、それに靖国やすくに神社の大祭も始まっておりますし、廿一日には観兵式もございますし、今月の東京は大変なんでございますのよ。
細雪:03 下巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
ハッと気附きづいた。きょうは靖国やすくに神社の大祭で学校は休みなのだ。孤立派の失敗である。きょうが休みだと知っていたら、ゆうべだって、もっと楽しかったであろうに。馬鹿馬鹿しい。
正義と微笑 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「そしたらお母さん、靖国やすくにの母になれんじゃないか」
二十四の瞳 (新字新仮名) / 壺井栄(著)
悦子も二三日の間は、雪子に連れられて靖国やすくに神社や泉岳寺などを見て廻っていたけれども、暑い時分にそうそう出歩くことも出来ないし、間もなく退屈するようになった。
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
その晩、浩一は靖国やすくに神社のそばの小さなホテルに泊ったが、一と晩じゅうまんじりともせず、泣きあかした。涙があとからあとから、とめどもなくあふれ出して来て、どうすることも出来なかった。
女妖:01 前篇 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
ひる少し前に渋谷から電話で、明日の歌舞伎の切符が取れたことを知らして来たが、今日は一日することがないので、午後から銀座に出てお茶を飲み、尾張町でタキシーを拾って、靖国やすくに神社から永田町
細雪:02 中巻 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)