靄々あいあい)” の例文
直二郎のいるところでは決して荒い言葉の出たためしがないし、いつも和気靄々あいあいと笑いごえが絶えない。
明暗嫁問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
安土の夜を行くには、松明たいまつ提灯ちょうちんも要らなかった。歳暮のせいか、町の灯は種々さまざま色彩いろどりをもち、家々の灯は赤く道を染めて、春を待つざわめきを靄々あいあいと煙らせていた。
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中には子供たちの頭を撫でて抱き上げて、頬摺ほおずりしている者もあり、言葉は通ぜぬながらも、兵員たちと群集との間には、早くも和気の靄々あいあいたるものを生じて女たちの二
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
たちまち満堂和気靄々あいあいとしてしまって、何ともいえないいい一夜のつどいになったという。
艶色落語講談鑑賞 (新字新仮名) / 正岡容(著)
田舎には合祀前どの地にも、かかる質樸にして和気靄々あいあいたる良風俗あり。平生農桑のうそうで多忙なるも、祭日ごとに嫁も里へ帰りて老父をせいし、婆は三升樽を携えて孫を抱きに媳の在所へ往きしなり。
神社合祀に関する意見 (新字新仮名) / 南方熊楠(著)
唯、靄々あいあいたる彼が笑容しょうよう、昂然たる彼が雄姿、朗々たる彼が声調、眼の前に、耳の底に髣髴ほうふつとして残留し、寸時もわが胸奥を離れない。(中略)自分は、かつて骨肉の喪を悲しんだ。友の難を悲しんだ。
西施せいしのひそみにならえるか。靄々あいあいたるまゆのあたりに。すこししわをよせて。口の中で手紙をよんでいるところへ。来かかりたる女生徒。目は大きやかなれどどこにか愛敬あるが。そっと障子を明けて。
藪の鶯 (新字新仮名) / 三宅花圃(著)
自ずとそこに和気靄々あいあいとしたものが生れるのです。
私の小売商道 (新字新仮名) / 相馬愛蔵(著)
落日と共にあらゆる虚空音こくうおんも雲の果てに吸い込まれたような一ときだった。そこの人馬や波の模様も靄々あいあいとしておぼろである。ただ合図の煙だけが白くまっすぐに立ちのぼる。
私本太平記:06 八荒帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
じつに和気靄々あいあいたるものがあった。