離愁りしゅう)” の例文
西東にしひがし長短のたもとを分かって、離愁りしゅうとざ暮雲ぼうん相思そうしかんかれては、う事のうとくなりまさるこの年月としつきを、変らぬとのみは思いも寄らぬ。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
旅をして歩く時に興に乗じてうたう歌、危険な山坂を超ゆる時、魔除まよけを兼ねて歌いつけの歌、心なく歌っても離愁りしゅうの思いが糸のように長く引かれる。
大菩薩峠:08 白根山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
勝入のおもては、無感覚にみえる。すでに、勝敗もない。功利もない。現世とのあわ離愁りしゅうが、母の乳の香のする遠い過去までを、ふと、思いかえさしているだけだった。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)