雑駁ざつぱく)” の例文
つまり店の小粋な設備も座敷を取り払ひ、一切腰かけにしたし、値段書きもはつきりと出し、雑駁ざつぱくな趣味のないものになつて了つたからである。
一の酉 (新字旧仮名) / 武田麟太郎(著)
僕が講演旅行へ出かけたのは今度里見弴さとみとん君と北海道へ行つたのが始めてだ。入場料をとらない聴衆は自然雑駁ざつぱくになりがちだから、それだけでも可也かなりしやべりにくい。
講演軍記 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
極めて雑駁ざつぱくに、極めて独断的に之を解けば、前に「快楽」の起原に就きて曰ひたる如く、人間は欲の動物なるが故に、その欲と調和したる度に於て、自家の満足を得る為に
時事新報は今日も猶彼れの議論を掲げて天下に紹介せり。彼れの論ずる所は雑駁ざつぱくにせよ、堅硬スタビリチイを欠くにせよ、其混々たる脳の泉は今日に至るまで猶流れてるゝことをなし。是豈驚異すべきに非ずや。
明治文学史 (新字旧仮名) / 山路愛山(著)
僕は上に書いた通り、すこぶ雑駁ざつぱくな作家である。が、雑駁な作家であることは必しも僕のわづらひではない。いや、何びとの患ひでもない。古来の大作家と称するものはことごとく雑駁な作家である。
しかし雑駁ざつぱくである大詩人はあつても、純粋でない大詩人はない。従つて大詩人を大詩人たらしめるものは、——少くとも後代に大詩人の名を与へしめるものは雑駁であることに帰着してゐる。