隧道ずいどう)” の例文
金谷かなや隧道ずいどう長くて灯をとぼしたる、これは昔蛇の住みし穴かと云いししれ者の事など思い出す。静岡にて乗客多く入れ換りたれど美人らしきは遂に乗らず。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その南の方に当って水門がある。その水門というは、山の裾をくぐっている一つの隧道ずいどうであります。
後世への最大遺物 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
此集には見えないが京の隧道ずいどうを舟で抜ける所などいまだに余が頭に残って居る。其代り人間の運命と云う事を主にして見ると、あまり成功して居らん。ただ大内旅宿だけはうまく出来て居る。
高浜虚子著『鶏頭』序 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御茶の水上橋に非ずして御茶の水下橋にあり(橋の名のかく名づけられたるなり)下橋を渡りて隧道ずいどうに依りて通ずる幾個の地下国は尽くこれ待合(今の待合とやや性質を異にす)にして、毎家
四百年後の東京 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
新温泉の別荘へ療治に行ったかえりがけ、それが、真夜中、時刻もちょうど丑満うしみつであった、みや神社へ上り口、新温泉は神社の裏山に開けたから、皈りみちの按摩さんには下口になる、隧道ずいどうの中で
遺稿:02 遺稿 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と云うよりむしろ隧道ずいどうなのであった。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
興津おきつを過ぐる頃は雨となりたれば富士も三保みほも見えず、真青なる海に白浪風に騒ぎすなどる船の影も見えず、磯辺の砂雨にぬれてうるわしく、先手の隧道ずいどうもまた画中のものなり。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それは隧道ずいどうと云うべきである。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
前は桜樹の隧道ずいどう、花時思いやらる。八重桜多き由なれど花なければ吾には見分け難し。
半日ある記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
さねかずらとはどんなものかしらず、つたいでる崖に清水したゝって線路脇の小溝に落つる音涼し。窓より首さしのべて行手を見るに隧道ずいどう眼前に窅然ようぜんとして向うの口ぜにのまわりほどに見ゆ。
東上記 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)