鉄梯子てつばしご)” の例文
帆村荘六は、そこで尻端折しりはしょりをして、冷い鉄梯子てつばしごにつかまった。そして下駄をはいたまま、エッチラオッチラ上にのぼっていった。
蠅男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
ところが、それから二度三度と現われた父の手は、いつも決まって、船底に続く鉄梯子てつばしごの方角のほうから現われてくるのでした。
紅毛傾城 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
軽業師かるわざしの足つきで煙突に移ると、五メートルばかり上をのぼる山口と声を合わせて笑い、そのままある快適なリズムにのり鉄梯子てつばしごをのぼりはじめた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
俺は黙って鉄梯子てつばしごを昇って、中甲板ちゅうかんぱんの水夫部屋に来た。入口につかまって仁王立におうだちになったまま大声で怒鳴った。
難船小僧 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
車上のAは、貨車抜き取りの瞬間、前車に飛び移り、接続器の横の鉄梯子てつばしごにとりついて、身を縮めている。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
最初の銅羅どらが暁を破ると見送人達は鉄梯子てつばしごを下りて対岸に並ぶと、二度目の銅羅と一斉にわめき出す。
孟買挿話 (新字新仮名) / 吉行エイスケ(著)
ぼくも、杏の実をにぎりしめ、くるくると鉄梯子てつばしごをあがって、頂辺てっぺんのボオト・デッキに出ました。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
指がこごえ、硬直して、しかもその指で鉄梯子てつばしごをつかむと、まるで氷の棒をじかにつかむように、鉄棒はさらにつめたく冷えきっているのだった。……
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
ガンと、横腹よこばらを、鉄梯子てつばしごに打ちつけたがそのとき、幸運にも右脚が、ヒョイと梯子に引懸った。
夜泣き鉄骨 (新字新仮名) / 海野十三(著)
この垂直の鉄梯子てつばしごを降りるんだ。油でヌラヌラしているから気を付け給え。落ちたらコッパ微塵みじんだよ。ウンなかなか君は身が軽いね。運動をやっているんだね。スキーにダンスか。そいつあモダンだ。
焦点を合せる (新字新仮名) / 夢野久作(著)
彼は別人のような子供っぽい一途いちずな顔になって、無邪気に指で合図すると、なんの躊躇ちゅうちょもなくするすると巧みに金網を乗り越え、煙突の細い鉄梯子てつばしごを器用にのぼりはじめた。
煙突 (新字新仮名) / 山川方夫(著)
では、下界げかいで待っているあの人のために、第二にはロードスターのために、第三は原稿料のために、第四は編集長のために、勇気を出して、この鉄梯子てつばしごつかまって登りましょう。
遊星植民説 (新字新仮名) / 海野十三(著)