鉄拐てっかい)” の例文
旧字:鐵拐
立てっ続けに煙草を五、六服、鉄拐てっかい仙人のように、小鼻をふくらませて天井をにらんで、さてと言った調子でプレリュードに取かかるのです。
刈藻かるも川へ南下して来る道と、また、山上の小道を西方へれて、鉄拐てっかいヶ峰を迂回し、遠く一ノ谷の断崖の上に出たという説など区々ですがね。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すなわち二匹を手に入れて、交尾をさせて子を産ませた者は、莫大な財宝を得られるとな。云い出したのは女方術師ほうじゅつし、お前も知っておる鉄拐てっかい夫人だ。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
と云うとふとそこへ、語るものが口から吐いた、鉄拐てっかいのごとき魍魎もうりょうが土塀に映った、……それは老人の影であった。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
その上防波堤へ上がって、砂ぶかい汽車や電車の軌道ぞいの往来へあがってみると、高台の方には、単調な松原のなかに、別荘や病院のあるのが目につくだけで、鉄拐てっかいヶ峰や一の谷もつまらなかった。
蒼白い月 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
降りぬいたあとだけに、空は拭われたように青く、大気は澄み、西は鉄拐てっかい山、横尾山、高尾、再度山ふたたびさん、ひがしは摩耶まや、六甲まで眉にせまるほど近くに見える。
私本太平記:12 湊川帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこでまた清々すがすがしく一吸ひとすいして、山のの煙を吐くこと、遠見とおみ鉄拐てっかいの如く
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
きのう、清盛の雪ノ御所をたずねて、麓まで行った会下山えげさんは眼のまえだ。摩耶まや鉄拐てっかい鉢伏はちぶせなど、神戸から須磨すま明石あかしへかけて、市街の背光をなしている低山群も、山姿すべてあざらかである。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)