野乗やじょう)” の例文
正当なる歴史を標榜する史籍さえ往々不穿鑿ふせんさくなる史実を伝えて毫も怪しまない時代であるから、ましてや稗官はいかん野乗やじょうがいい加減な出鱈目でたらめを列べるのも少しも不思議はない。
八犬伝談余 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
ソノ世系ノ如キハ野乗やじょうニ詳ナリ。母はらムコト十三月ニシテ産ム。尾公ノ家臣原氏ノ女ヲめとリ四男一女ヲ生ム。曰ク典。吉。混。茂。女ハ先ニ死ス。典ト茂トハ今征夷府せいいふつかフ。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
定命録ていめいろく続定命録ぞくていめいろく前定録ぜんていろく感定録かんていろく等、小説野乗やじょうの記するところを見れば、吉凶禍福は、皆定数ありて飲啄笑哭いんたくしょうこくも、ことごとく天意にるかと疑わる。されど紛々たる雑書、何ぞ信ずるに足らん。
運命 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
得るは稗史はいし野乗やじょう核子かくしなれど茲に築地の土佐堀は小鯔いなの多く捕れる処ゆゑ一昨夜も雨上りに北鞘町の大工喜三郎が築地橋の側の処にて漁上とりあげたのは大鯔にて直ぐに寿美屋の料理番が七十五銭に買求め昨朝庖丁した処腹の中から○之助様ふでよりと記した上封うわふうじが出たといふがモウ一字知れたら艶原稿の続きものにでもなりさうな話。
探偵夜話 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)