遠州灘えんしゅうなだ)” の例文
この一こう五十二艘の大船は、はじめはつつがない海路にみえたが、やがて遠州灘えんしゅうなだにさしかかったとき、大きな暴風しけに出会ってしまった。
私本太平記:13 黒白帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
竜神松五郎りゅうじんまつごろうと云って、遠州灘えんしゅうなだから相模灘さがみなだ、江戸の海へも乗り廻して、大きな仕事をしていましたよ」
悪因縁の怨 (新字新仮名) / 江見水蔭(著)
それが紀州きしゅう沖から、志摩しま半島沖、更に東に進んで遠州灘えんしゅうなだ沖と、だんだん帝都に接近してきた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
伊勢を出る時から頭が上らなかったのが、遠州灘えんしゅうなだへ来ると、もう死人のようになってしまいました。このまま船を進めれば、お君は船の中で死んでしまうよりほかはないと思い
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と地だんだんでにらみつけたが、へだては海——それもはや模糊もことして、遠州灘えんしゅうなだなみがくれてゆくものを、いかに、龍太郎でも、飛んでゆく秘術ひじゅつはない。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
八幡船ばはんせん遠州灘えんしゅうなだへかかった時から、伊那丸の意識いしきはなかった。この海賊船かいぞくせんが、どこへ向かっていくかも、おのれにどんな危害がせまりつつあるのかも、かれはすべてを知らずにいる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、あやしい羽音はおとが、またも空に鳴った。はッとしてふたりが船からふりあおぐと、大きなをえがいていた怪鳥けちょうのかげが、しおけむる遠州灘えんしゅうなだのあなたへ、一しゅんのまに、かけりさった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)