遊蕩いうたう)” の例文
K氏の『銀貨』といふ小説を、A氏が遊蕩いうたう文学の中に入れなかつたと言つて、作者自身が喜んでゐるのを私は滑稽だと思つた。
脱却の工夫 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
そこへY氏やTがやつて来て、自分をあの遊蕩いうたうの世界へ導いて行つた。俺はほんとに求めてゐたものを、与へられた気がした。
良友悪友 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
女房を迎へるひまもないやうな、せはしい遊蕩いうたう——そんな出鱈目な遊びの揚句は、世間並みな最後の幕へ押し流されて來たのです。
佐太夫とは歴々武士の落胤らくいん、道也とは名家釜師のなれの果て、其生立おひたちを聞けば彼も母一人此も母一人、彼は娼家に養はれ、此は遊蕩いうたうと呼ぶ嬭母はゝに養はる。
兼吉と云ふ男は決して其様そんな性格の者ではありませぬ、石川島造船会社でも評判の職工で、酒は飲まず、遊蕩いうたうなどしたことなく、老母にはきはめて孝行で
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
彼の述べる所によると、彼が遊蕩いうたうめないのも、実は人生を観ずる為の手段に過ぎぬのださうである。
点心 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
其処にあの遊蕩いうたうの気分が渦巻うづまき、三味線の音が聞え、赤いすそをチラホラさせた色の白い女達が往来し、老僧は老僧で
ある僧の奇蹟 (新字旧仮名) / 田山花袋(著)
鹿島龍蔵かしまりゆうざう これも親子ほど年の違ふ実業家なり。少年西洋に在りし為、三味線しやみせん御神燈ごしんとうを見ても遊蕩いうたうを想はず、その代りになまめきたるランプ・シエエドなどを見れば、忽ち遊蕩をおもふよし。
田端人 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)