辛々からがら)” の例文
いよいよ悪象ファッツに走り懸ると彼奴かやつ今吐いた広言を忘れ精神散乱して杼も餅も落し命辛々からがら逃げ走る、その餅原来尋常の餅でなく
新田義貞と北条勢とは、ここを先途と追いつ追われつしていた。足利尊氏が命辛々からがら逃げたあともここを去ること遠くはない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
二人は小野田が数日のあいだに働いて手にすることのできた、少しばかりの旅費を持って、辛々からがらそこを立ったのであった。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
見る見る蛇は中央の一艘を占領して、北見之守をはじめ、妻妾も家臣達も命辛々からがら、比較的蛇の襲撃の少ない、他の二艘に引き揚げたのが精々でした。
をんなは命辛々からがら迯了にげおほせけれども、目覚むるとひとし頭面まくらもとは一面の火なるに仰天し、二声三声奥を呼捨よびすてにして走りでければ、あるじたちは如何いかになりけん、知らずと言ふ。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
秋月九十郎は命辛々からがら逃げ廻りました。そして、一つ一つ物を失い、一枚一枚身の皮を剥ぎました。
こうして命辛々からがらで辷ったり泳いだりしているくらいだから、さしも自慢にしていた名物の書画も骨董こっとうも顧みる暇はなく、思う存分に水をかけられてころがり廻ってしまいます。