軟風なんぷう)” の例文
日光は直射するが、海より吹く軟風なんぷうのために暑気を感ぜず、好晴のもとに浮ぶあは青靄せいあいの気が眸中ぼうちう山野さんやを春の如く駘蕩たいたうたらしめるのであつた。
涼やかな軟風なんぷうにさざなみを立てている不忍池畔しのばずちはんの池添い道を、鉄色無地の羽二重はぶたえの着流し姿に、たちばなの加賀紋をつけた黒い短か羽織茶色の帯に、蝋塗ろうぬり細身の大小の落し差し
艶容万年若衆 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
その日一天いつてんうららかに空の色も水の色も青くみて、軟風なんぷうおもむろに小波ささなみわたる淵の上には、ちり一葉ひとはの浮べるあらで、白き鳥のつばさ広きがゆたかに藍碧らんぺきなる水面を横ぎりて舞へり。
竜潭譚 (新字旧仮名) / 泉鏡花(著)
傘のやうに日のゆれる軟風なんぷうはたちはだかり
藍色の蟇 (新字旧仮名) / 大手拓次(著)