わだち)” の例文
やがて——そう間もないうちに——五条口から西洞院にしのとういんの大路を、キリ、キリ、とかすかなわだちの音が濡れた大地を静かにきしんでくる。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
雲母坂きららざかを越えて斜めに降りてくる範宴の姿や、その他の迎えの人々が見え初めたのである。くるまれんをあげて、牛飼はわだちの位置を向きかえた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
同じわだち泥上でいじょうにえがいて、宿業の車輪は、興亡、流転、愛憎、相剋そうこく猜疑さいぎ、また戦争など、くり返しくり返しとどまるところがなかったのです。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
キキキ、キッ、とわだちの音がどこからかしてくる。見ると、日永ひなが遊山ゆさんに飽いたような牛が、一台のくるまを曳いてのろのろと日野の里を横に過ぎて行く。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
でも、わだちあとはある。宮の牛車のまえにも誰かは通ったものだろう。やがて二条富小路の禁裡の内へ御車が消え入ったのは、すでに初更しょこう(宵)の頃だった。
羗軍は負け色立つと見るや鉄の針鼠を無数に繰り出して縦横に血のわだちをえがき、むらがる蜀兵をき殺しつつ、車窓から連弩れんどを射放って、敵中無碍むげに走り廻るのであった。
三国志:11 五丈原の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
安禄山あんろくざんの叛乱に、兵車のわだちのもとに楊貴妃ようきひを失った漢皇かんおうが、のち貴妃を恋うのあまり、道士に命じて、魂魄をたずねさせ、道士はそれを、かみは碧落の極み、下は黄泉にいたるまでさがしもとめ、遂に
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)