踟蹰ちちゅう)” の例文
金は無論しい。脅嚇おどかしも勿論く。二十万坪の内八万坪、五十三名の地主の内十九名は、売渡うりわたし承諾しょうだく契約書けいやくしょに調印してしまった。踟蹰ちちゅうする者もあった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
ただ余は、人力の微弱なるために、往々取捨選択に迷うことあり、猶予踟蹰ちちゅうして決することあたわざることあり。
迷信と宗教 (新字新仮名) / 井上円了(著)
しかれども地方の巡邏じゅんら甚だ密にして、官船を除くの外、一切近づきすすむを許さず、これがために踟蹰ちちゅうす。
吉田松陰 (新字新仮名) / 徳富蘇峰(著)
夢のような TON(調子)も抑えつけようとして踟蹰ちちゅう逡巡している人も少くないようである。
緑色の太陽 (新字新仮名) / 高村光太郎(著)
外套がいとうをばここにて脱ぎ、わたどのをつたいてへやの前まできしが、余は少し踟蹰ちちゅうしたり。同じく大学に在りし日に、余が品行の方正なるを激賞したる相沢が、きょうはいかなるおももちして出迎うらん。
舞姫 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
余は上ろうか上るまいかと踟蹰ちちゅうしたが、つい女児じょじと犬を下に残して片手てすりを握りつゝ酒樽のこもを敷いた楷梯はしごを上った。北へ、折れて西へ、折れて南へ、三じゅうの楷梯を上って漸く頂上に達した。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)