跳退はねの)” の例文
あたかも方頷ほうがん無髯むぜんの巨漢が高い卓子テーブルの上から薄暗いランプを移して、今まで腰を掛けていたらしい黒塗の箱の上の蒲団ふとん跳退はねのけて代りに置く処だった。
二葉亭余談 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
かすか唸声うなりごえが左の隅に聞えたので、彼は其方そのほうへ探って行くと、一枚の荒莚あらむしろが手に触れた。莚を跳退はねのけて進もうとすると、何者かその莚のはしを固く掴んでいるらしい。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
彼女が圏外に跳退はねのけられたのではなく、若いおり聡明そうめいであった彼女の頭が、すこし頑迷がんめいになったためではあるまいか、若いうちは皮相な芸でも突きこんでゆこうとする勇気があった。
マダム貞奴 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
主人の前で寝そべっている訳には行かないので、お菊はすぐによぎ跳退はねのけて蒲団の上に跪坐かしこまると、お熊はその蒲団の端へ乗りかかるように両膝を突き寄せて彼女かれの顔を覗き込んだ。
黄八丈の小袖 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)