足摺あしず)” の例文
父の嘉明の小兵こひょうに似ず、六尺豊かな加藤式部少輔明成は、足摺あしずりして焦慮あせった。主がこの気もちだから、血気な士ははやりきって、何かというと殺気立った。
討たせてやらぬ敵討 (新字新仮名) / 長谷川伸(著)
溝口以下の者は、足摺あしずりをして口惜しがったが、手負いを交ぜた七人の小勢では、何とも施すすべもないので、捨科白すてぜりふを言い残したまま駒を返して引き揚げてしまった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泣いても泣いても足らず足摺あしずりということをしてもだえているのが子供のようであった。
源氏物語:54 蜻蛉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「イヤ、イヤ、坊やも一緒に行く。」と足摺あしずりをしながら、黒ちやんは強請ねだりました。
熊と猪 (新字旧仮名) / 沖野岩三郎(著)
慷慨家こうがいかの金子は、翼なき身を口惜しむように、足摺あしずりしながら叫んだ。
船医の立場 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
見ているうちに何かの植物が枯れていくように総角あげまきの姫君の死んだのは悲しいことであった。引きとめることもできず、足摺あしずりしたいほどに薫は思い、人が何と思うともはばかる気はなくなっていた。
源氏物語:49 総角 (新字新仮名) / 紫式部(著)