貞淑ていしゅく)” の例文
貞淑ていしゅくで美しい妻をめとり、三人の愛児を生み、平和で楽しい家庭生活をするようになってから、さびしいながらも満足な晩年を経験した。
なぜなら私情を殺した女支配者の沈静な観察にえて最大の信任をはくしたのだから。彼女は貞淑ていしゅくであり、潔癖けっぺきであり、忠誠であったに相違ない。
道鏡 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
賢明なる君はそののこともおのずから推察出来るであろう。ダアワは爾来じらい貞淑ていしゅくに僕等四人を愛している。僕等も、——それは言わないでもい。
第四の夫から (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
偉大な男性をわが良人とした女性は、選ばれた幸福者には似ているが、狭い女ごころや小さい貞淑ていしゅくの対象とするだけでは、到底、この良人は持ちきれない。
新書太閤記:09 第九分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
僕の知れるぼう貴夫人はすこぶる高潔なる家庭に人となり、貞淑ていしゅくをもってしょうせられているが、あるとき僕に
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
燈台に打ち当って死ぬかもめの羽毛でもって、小さい白いチョッキを作り、貞淑ていしゅくな可愛い細君であったのに、そのチョッキを着物の下に着込んでから、急に落ち着きを失い
女人訓戒 (新字新仮名) / 太宰治(著)
非常に貞淑ていしゅくの様でもあり、どうかすると馬鹿にコケットな所も見える。一寸とらえ所がない。
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
貞淑ていしゅくなる妻は夜の夫の全部を自分のものとする。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
吾人は貞淑ていしゅくなる夫人のために満腔まんこうの同情をひょうすると共に、賢明なる三菱みつびし当事者のために夫人の便宜べんぎを考慮するにやぶさかならざらんことを切望するものなり。……
馬の脚 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
「分ってますわ。でも、私が今まで通り山野の貞淑ていしゅくな妻であっても」
一寸法師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)