謹厳きんげん)” の例文
クーパーがおどろいて、目をあげてそばを見ると、さっき、すがたを見かけた東洋人と白人とが謹厳きんげんな顔をこっちへ向けていた。
海底大陸 (新字新仮名) / 海野十三(著)
外では勉強べんきょうに見せて内ではなまける。表向きではすこぶる謹厳きんげんふうを装いながら、裏面ではすこぶる放蕩ほうとうする。あるいはまた表面節倹せっけんで裏面濫費らんぴする。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
どつちかといふと謹厳きんげんな輸入部の空気が、打つてつけの時機に巧みにもみほぐされることのあるのも事実であつた。
灰色の眼の女 (新字旧仮名) / 神西清(著)
あの人は基督キリストのように謹厳きんげんな人でした。あとにも先にもあの人が恋愛というような感情に動かされたのは妾の場合だけだったことを妾ははっきり知っているのです。
華やかな罪過 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
浴衣ゆかたはかまの、白扇はくせんを持った痩せ形の老人が謹厳きんげんに私達を迎えた。役場から見えていたのである。
木曾川 (新字新仮名) / 北原白秋(著)
そして最も謹厳きんげんな態度で、「じつは、私は、いろいろと……恐縮しておりますので……これで失礼します……」こう言って、うやうやしく頭をさげた。これでおしまいであったのだ。
遁走 (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
と富士男は謹厳きんげんなる口調くちょうでいった。
少年連盟 (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
ウルランド氏は、謹厳きんげんいやしくもせぬ模範的紳士として、社交界の物言う花からねらいうちの標的まととなっていた人物だった。
見えざる敵 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「深窓に育った蠅か? あッはッはッはッ」と捜査課長が謹厳きんげんな顔を崩して笑い出した。
(新字新仮名) / 海野十三(著)