いつはり)” の例文
されども、彼は未だ恋の甘きを知らざるがゆゑに、心狭くもこの面白き世に偏屈のとびらを閉ぢて、いつはりと軽薄と利欲との外なる楽あるをさとらざるならん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
さりとて外の乞兒の如く憐を乞ふにもあらず。唯だおのが前を過ぐる人あるごとに、いつはりありげにおもてをしかめて「ボン、ジヨオルノオ」(我俗の今日はといふ如し)と呼べり。
と互の誓詞せいしいつはりはあらざりけるを、帰りて母君にふことありしに、いといたう驚かれて、こは由々ゆゆしき家の大事ぞや。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
人情のいつはり多きは、山里も都大路みやこおほぢも殊なることなけれど、山里は爽かに涼しき風吹きて、住む人の少きこそめでたけれ。汝はアリチアの婚禮とサヱルリ侯との昔がたりを知るならん。
軽薄でなければいつはり、詐でなければ利慾、愛相あいその尽きた世の中です。それほど可厭いやな世の中なら、何為なぜ一思ひとおもひに死んで了はんか、と或は御不審かも知れん。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
刃のいつはり多き胸を貫きし時、はだへは雪の如くかゞやきぬとぞ語りし。