観音経かんのんぎょう)” の例文
ばばの唱える観音経かんのんぎょうの声がそこにする。ばばの眼や耳には、お通の声も姿もなかった。ただ、観音が見える。菩薩ぼさつ御声みこえが聞えている。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
手足被杻械しゅそくぴちゅうかい念彼観音力ねんぴかんのんりき釈然得解脱しゃくねんとくげだつ、と牢のなかでも観音経かんのんぎょうんで居たが今ヒョロ/\と縄に掛って仮牢から引出ひきだされるを見ますると
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
内供は、こう云う時には、鏡を箱へしまいながら、今更のようにため息をついて、不承不承にまた元の経机きょうづくえへ、観音経かんのんぎょうをよみに帰るのである。
(新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
おいの中より観音経かんのんぎょうを取出し、さかさとも知らず押しいただき、そのまま開いておろおろ読み上げる者もあり、瓢箪ひょうたんを引き寄せ中に満たされてある酒を大急ぎで口呑くちのみして
新釈諸国噺 (新字新仮名) / 太宰治(著)
無動寺の奥まった一間ひとまのうちから、じゅすともなくとなうるともない十句観音経かんのんぎょうの声が——声というよりはおのずから出るつぶやきのように漏れてくる。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)