うちかけ)” の例文
勿論土地の売れったちは総縫そうぬいの振袖や、うちかけを着た、腰元や奥女中に、他の土地の盛り場のおんなたちと交っていたので、その通行のおりには大変な人気であった。
一世お鯉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
袖口の切れたやうな長襦袢ながじゆばんに古いお召の部屋着をきてゐたその上にうちかけ無造作むぞうさに引つかけて、その部屋へ顔を出して行つたのであつたが、鳩のやうな其の目はよくその男のうへに働いた。
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
同じ武家の姫となぞらえて迎えるような手筈てはずは、とうに、はぎ野は知っているはずだった、母からの衣裳や髪化粧の具、うちかけかさねの数々もひそかに母からわたされていることを知っている経之は
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
結城ゆうきから入ったいねというのを御寵愛になるげなが、この女子おなごは、昼はおすべらかしにうちかけという御殿風、夜になるとつぶし島田に赤い手絡てがら浴衣ゆかたがけといういきな姿でお寝間入りをなさるそうな。
大菩薩峠:32 弁信の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
そこで新造しんぞたちを相手に酒を飲んでゐたが、彼女自身はちよつとうちかけを着て姿を見せただけで……勿論どんな客だかといふことは、長いあひだ場数を踏んで来た彼女にも、淡い不安な興味で
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)