袋町ふくろまち)” の例文
私は本町の裏手から停車場と共に開けた相生町あいおいちょうの道路を横ぎり、古い士族屋敷の残った袋町ふくろまちを通りぬけて、田圃側たんぼわきの細道へ出た。
千曲川のスケッチ (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
長い袋小路ふくろこうぢの中ごろで、丁字路の一方のかどの家なのだが、袋町ふくろまちといふ名の通り、この角で行止りに見えるほど、行儀わるくくひちがひになつてゐる。
夏の夜 (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
殆ど袋町ふくろまちのように、今末造の来た方角へ曲がる処で終って、それから医学生が虫様突起と名づけた狭い横町が、あの山岡鉄舟の字を柱に掘り附けたやしろの前を通っていた。
(新字新仮名) / 森鴎外(著)
とびの光、火事頭巾、火消目付ひけしめつけらしゃなどが、煙にまじってうずまく中を抜けて、勧学坂かんがくざかから袋町ふくろまちを突ッきり、やがておのれの棲家すみかまで来てみると、すでにそこは一面の火の海。
鳴門秘帖:02 江戸の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紙の右半はそれだけであとは空白であるが、左半の方にはややゴタゴタ入り組んだ街路がかいてある。不折の家は二つ並んだ袋町ふくろまちの一方のいちばん奥にあって「上根岸四十番不折」としてある。
子規自筆の根岸地図 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その構外かまえそとの石垣について突当りました処が袋町ふくろまちです。それはだらだら下りの坂になった町で、浅間の方から流れて来る河の支流わかれが浅く町中を通っております。
旧主人 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
浜野氏の故旧に聞く所に拠れば、霞亭が嚢里の家は今の本郷区駒込西片町十番地「ろ部、柳町の坂を上りたる所、中川謙次郎氏の居所の前辺まへあたりより左に入りたる」袋町ふくろまちであつたさうである。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)