やぶ)” の例文
「あいつに応接間の虎の皮をかぶせます。やぶの中にかくれていていきなり出ることにしたら、いくら安斉先生でもびっくりなさいますぜ」
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
医師いしゃのお父さんが、診察をしたばかりで、やぶだからどうにも出来ない。あくる朝なくなりました。
木の子説法 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
つき当たりにお稲荷いなりさんがまつってあった。そこらは、あまり手入れのしてないやぶになっていて、ひからびたお供物くもつなどののったさらが、土といっしょにころがっていた。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
父さんの言いなさるには、あんなやぶ医者に見せたばかりじゃ安心ならねえ。平沢に骨つぎの名人が有るということだによって、明日はなんでも其処へお隅をることだ、と言ってなさる。
藁草履 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
今まであんなに金ばなれがよく、かなり優しくしてくれた人を、そうそうやぶから棒に追い出すなんて、できるわけのもんじゃない……といったようなぐあいでな……ふむ! こいつはしくじったわい!
それこそやぶから棒に——額をぴしゃりとたたいて、こうさけんだ。
はつ恋 (新字新仮名) / イワン・ツルゲーネフ(著)
おトンカチとバットはやぶの中にあった。杉山もこわくて奥へはいらなかったから、探すのにめんどうがなかった。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
やぶのように茂り重なった細い枝は見上るほど高く延びた。
岩石の間 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
安斉あんざい先生は旧藩きゅうはん時代の面影おもかげを顔のあばたに伝えている。まばらなひげが白い。その昔剣道できたえたと見えて、目がすこしやぶ傾向けいこうをおびている。にらみがきく。ナカナカこわい。
苦心の学友 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)