薄鼠うすねずみ)” の例文
星の数ほど、はらはらと咲き乱れたが、森が暗く山が薄鼠うすねずみになって濡れたから、しきりなく梟の声につけても、その紫のおもかげが、燐火おにびのようですごかった。
縁結び (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
カンテラので照らして見ると、下谷したや辺の溝渠どぶあふれたように、薄鼠うすねずみになってだぶだぶしている。その泥水がまた馬鹿に冷たい。指の股が切られるようである。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
黒の唐繻子とうじゅすと、薄鼠うすねずみに納戸がかった絹ちぢみに宝づくしのしぼりの入った、腹合せの帯を漏れた、水紅色ときいろ扱帯しごきにのせて、美しき手は芙蓉ふよう花片はなびら、風もさそわず無事であったが
悪獣篇 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それは女の穿いた靴の片足である。繻子しゅすで、色は薄鼠うすねずみであった。
満韓ところどころ (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
朱鷺色ときいろ手絡てがら艶々つやつやした円髷まるまげ、藤紫に薄鼠うすねずみのかかった小袖のつまへ、青柳をしっとりと、色の蝶が緑を透いて、抜けて、ひらひらと胸へ肩へ、舞立ったような飛模様を、すらりと着こなした
白花の朝顔 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)