蔭影かげ)” の例文
堀の水は鉛色に煙り、そとへ突き出した木々の枝葉で、土塀のあちこちには蔭影かげがつき、風が吹くたびにそれがれた。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
その男は頭から足の先まで蔭影かげにかざされてゐるのだ。ただほんのりと前から光りをうけてはゐるが、レヴコーがちよつとでも前へ出ようものなら、いやでも自分のからだを明るみへ曝さなければならぬ。
おのづから蔭影かげこそやどれ咲きてる桜花さくらの層のこのもかのもに
(新字旧仮名) / 岡本かの子(著)
釜の据えてある左手に、錦のとばりが懸けられてある。部屋の外へ通う戸口だろう。深い襞を作っている。襞のくぼみは蔭影かげをつくり、襞の高みは輝いている。
神秘昆虫館 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
高い広い理智的な額、眼窩がんかが深く落ち込んでいるため、蔭影かげを作っている鋭い眼……それは人間の眼というより、鋼鉄細工とでもいった方が、かえって当を得るようだ。
名人地獄 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「大逆人の相ではない。むしろ真面目まじめで誠忠で、一本気の人間の人相だ」なおつくづく見守ったが、「ははあ美男で年が若い、恋の陥穽おとしあなに落ち込んでいるな? そういえば命宮に蔭影かげがある。 ...
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)