色彩いろど)” の例文
周囲の歴史的雰囲気に色彩いろどられて、其の来歴を少しでも知る人々に特種な空想と異様な緊張を与えるのだが、通りすがりの人に取っても
決闘場 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
ぱっと移りのい杉葉に火が付いて、紅い炎は梁の煤にまで届こうとして、同時に太吉の顔を赤く色彩いろどった。太吉は髪の縮れた、眼の大きなであった。
越後の冬 (新字新仮名) / 小川未明(著)
門松、注連繩しめなわを焼く煙りが紫いろに辻々を色彩いろどって、初春はるらしい風が、かけつらねた絣の暖簾のれんたわむれる。
無理にも自分の過去を悲しいものに色彩いろどつて書いたものだつたが、姉は感動して、——恐らくは書かれてゐたことの十倍二十倍もの想像を加へて読んだのであらう。
イボタの虫 (新字旧仮名) / 中戸川吉二(著)
頭蓋骨は粉砕ふんさいされ、極度に歪められた顔面は、凝結した赤黒い血痕に依って物凄く色彩いろどられていた。
デパートの絞刑吏 (新字新仮名) / 大阪圭吉(著)
しかしせっかく主人が熱心に筆をっているのを動いては気の毒だと思って、じっと辛棒しんぼうしておった。彼は今吾輩の輪廓をかき上げて顔のあたりを色彩いろどっている。吾輩は自白する。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
形容しなければならないような、微妙な暗さに色彩いろどられている。
十二神貝十郎手柄話 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
この時、月は雲におおわれた。一面に沙原は薄暗くなった。して月を隠した雲の色は、黒と黄色に色彩いろどられて、黒い鳥の翼の下に月が隠れたように見えた。
薔薇と巫女 (新字新仮名) / 小川未明(著)
それが真赤に色彩いろどられた。
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
(少し考えて)なんでも……或る古物商の丁稚でっちは色白だ。古い、紅と青に色彩いろどった瓶を落してって泣いている。というようなあどけない歌であった。そのうちこの歌うたいの姿が見えなくなった。
日没の幻影 (新字新仮名) / 小川未明(著)
西の空が飴色に黄色く色彩いろどられて、曇った日は暮れかかっている。
夜の喜び (新字新仮名) / 小川未明(著)