肱金ひじがね)” の例文
それでみると明らかに、鉄格子と肱金ひじがねとはよく油が塗られていて、思ったよりしばしば開かれていたものらしい。その静けさは気味悪いものだった。
彼は無言のうちに、扉の一方を力をこめて押してみた。扉は丈夫でよく締まっていて、肱金ひじがねの上にきしっただけで、少しも動かなかった。他にも一つ扉が、アンナの室とブラウンの書斎との間にあった。
大溝渠だいこうきょの入り口の所で、最も意外なものに人々は出会った。その入り口は、昔は鉄格子てつごうしで閉ざされていたのであるが、もう肱金ひじがねしか残っていなかった。
家の中には何も物のうごめく気配もなかった。さびついた肱金ひじがねの音はだれの眠りをもさまさなかったのである。
肱金ひじがね蝶番ちょうつがいも錠前もまんなかの合わせ目もなかった。鉄の箍は一方から他方へ続けざまにうちつけてあった。
ところがこんどは、肱金ひじがねに油がきれていたので、突然闇の中にかすれた音がきしって長くあとを引いた。
破片はブリュジョンの寝台の上に落ちて、音を出さなかった。驟雨しゅううは雷鳴に交じって、扉を肱金ひじがねの上に揺すぶり、監獄の中は好都合な恐ろしい響きに満ちていた。
そして鉄格子は、酸化した肱金ひじがねの上にめったに開閉された様子も見えず、石のかまちに厚い錠前で固定してあり、錠前は赤くびて、大きな煉瓦れんがのようになっていた。
その日、人類の前景は変じた。ワーテルローは十九世紀の肱金ひじがねである。その偉人の消滅は、一大世紀の出現に必要であった。人の左右し得ざるある者がそれを支配した。
開いたりしめたりするとびらの音、肱金ひじがねの上にきしる鉄門の響き、衛兵らの騒ぎ、門監らのれた叫び声、中庭の舗石しきいしの上に当たる銃の床尾の音、それらのものが彼の所まで聞こえてきた。
明け方の風のように冷ややかな風が、あけ放したままの窓のとびらをその肱金ひじがねのうちに揺すっていた。暖炉の火は消えていた。蝋燭ろうそくも燃えつきようとしていた。そしてまだ暗い夜であった。
その他パリーの二十の街区やマレーやサント・ジュヌヴィエーヴの山などに、無数の防寨ができた。メニルモンタン街にあった防寨には、肱金ひじがねからもぎ取られた大きな門扉もんぴが見えていた。
それらの鉄の扉の肱金ひじがね、それらの鉄鎖、川の水がすれすれに流されているその高い軒窓、墓穴のように花崗岩の蓋がされて中の者に死者と生者との違いがあるのみのその石の箱、泥深いその地面
「音のしねえようにとびら肱金ひじがねにはろうを引いて置いたか。」