老齢とし)” の例文
旧字:老齡
いかんせん彼もすでに今年六十五という老齢としである。体のままにならないのは自然だったが、自分ではまだそう思わないらしい。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ロダン翁は老齢とし所為せゐで少し日常の事には耄碌まうろくの気味だから、逢ふ度に初対面の挨拶をしたり以前の話を忘れて居たりして訪客はうかくを困らすが
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
いいえ、齢をりしだいに悪くなりましたので、お医者は老齢としのせいだといいます。白内障そこひとかいう眼だそうでございます。
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
先日こなひだ七十三の老齢としまで女遊びをしたといふ西依成斎の事を書いたが、成斎の生れたうちは、熊本在の水呑百姓で、両親は朝はやくから肥桶こえたごを担いで野良へ仕事に出たものだ。
老齢としには勝てない」としみじみ自分へ云いきかせ、諦めさせようとするのだが、眼の前の活々いきいきとしたおしもの体へ視線がいくと、不意に激しい妬心が頭をもたげてきて
女心拾遺 (新字新仮名) / 矢田津世子(著)
この子がもし物ごころがつく時分わしも老齢としじゃから死んどるかも知れん。それで苦労して、なんでこんな苦しい娑婆しゃばに頼みもせんのに生み付けたのだと親を恨むかも知れん。
食魔 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
引きちぎつては使つてしまひをつたのぢや! だが、どうしやうがあらう、まさかこの老齢としで、掴みあひができるではなしさ! 去年のことぢやが、たまたまガデャーチをとほつたので
とりわけ斎藤利三のごときは、年も老齢としではあるし、忠諫ちゅうかんすでにるるところとならず、大勢の見透しにも老将だけに
新書太閤記:08 第八分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
けれど、老齢としのせいばかりではございません……あまり度々不幸な目に遭ってあまりひどく泣かされたせいでございます
幻想 (新字新仮名) / モーリス・ルヴェル(著)
繁三郎しげさぶらう氏の母親おふくろは九十近くの老齢としで、今だに達者でゐるが、孝行者の奥氏は東京へでも旅をする時には、一番に母親おふくろへ挨拶にく事を忘れない。すると母親おふくろは、きまつたやうにいふ。
畜生め! この老齢としになつて何ちふ恥をかかされるこつた!……