“紛失(なく)” の例文
その少女は夕食のために定食を食べたのだが、食べてしまうと、金入れを紛失(なく)くしたと云って代を払わなかったと云うのである。
少女 (新字新仮名) / 渡辺温(著)
紛失(なく)した刀だと思ったらそれを持って何処へでも逃げちめえねえ、己は後(あと)で其の侍と喰い合おうと死に合おうと構わねえからよ
家に帰ってから気がついてみると、その日、本阿弥から取った百両の金が、清麿のふところから、紛失(なく)なっていた。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
紛失(なく)されてはいささか困りますが、紛失なるような物ではなし、お貸しするとは云うものの、その実保管が願いたいので、ナーニご遠慮にゃア及びません。
銀三十枚 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
ある時、上衣を紛失(なく)した上川が、ぬれ手拭をさげ、風呂からあがりたての、桜色の皮膚で帰って来た。こっそり、おさきに這入ってきたのだ。愉快がった。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
横町の師匠のところで紛失(なく)し、お今の足袋は犬でも咥(くは)へて行つたとすると、この家で無くなつた品で本當に發見されないのは、用箪笥の鍵と、お文の櫛と、たつた二つだけになります。
何時の間にか戒脈が紛失(なく)なつてゐるのに気が注(つ)いた。
『失敗(しま)つた、紛失(なく)しちまつたア』
小熊秀雄全集-15:小説 (新字旧仮名) / 小熊秀雄(著)
もし、あれを紛失(なく)したら、船へ責任を持たせますよ。宝石だけでも十万円位なものは、はいっているんですから
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「今夜も紛失(なく)してしまいました。いえいえ今夜ばかりではなく、その後ずっといろいろの土地で、お妻太夫さんを紛失しまして、心配をいたしましてございます」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
「どうしたんですか。何か紛失(なく)したんですか?」支配人が、騒ぎの方へ、ちょかちょかと馳せてきた。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
横町の師匠のところで紛失(なく)し、お今の足袋は犬でも咥(くわ)えて行ったとすると、この家で無くなった品で本当に発見されないのは、用箪笥の鍵と、お文の櫛と、たった二つだけになります。
重「そう致しますには肝腎の紛失(なく)した物が出なければいけないのでございます」
そして、自分の情婦(おんな)の手に預けて、紛失(なく)してしまったことを白状すると、渋沢は、案外こだわらなかった。
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「で、またお紛失(なく)しなすったので?」
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
誰か捕まえて下さい、いいえ、あのオペラバッグを取って下さい、あれを紛失(なく)しては、大変なんです! お礼は、いくらでもあげる。事務長さん、どうして下さるの。
かんかん虫は唄う (新字新仮名) / 吉川英治(著)
嘲笑(あざわら)うように牛車の轍(わだち)は彼を捨てて行った。城太郎は腰をさすって起き上がったが、ふと妙な顔して地上をきょろきょろ見まわし始めた——何か紛失(なく)し物でもしたような眼で。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「ははは、紛失(なく)してしまった物ならしかたのない話、なぜ先日、そう云わなかったのだ」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その侍の顔が、熊のようなあご髯(ひげ)を持っているので、城太郎は忘れていなかった。——宇治橋へかかる大和路の途中で、紛失(なく)したと思った手紙の竹筒を拾ってくれたあの人なのだ。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『先頃、大工小屋から、御邸内を改築した折の板絵図が紛失(なく)なったのだ。——誰かそれを盗み出して塀越しに赤穂の者へ投げてやった者がある。——その嫌疑がかかったのだろう』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)