粗雑がさつ)” の例文
旧字:粗雜
町幅のだだっ広い、単調で粗雑がさつな長い大通りは、どこを見向いても陰鬱に闃寂ひっそりしていたが、その癖寒い冬の夕暮のあわただしい物音が、さびれた町の底におどんでいた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
ふと異しい物音がした、キキと何かを引つ掻くやうな、……と思ふとまた性急に、然し怖々おづおづと、否寧ろ時折は粗雑がさつ四肢よつあしで引つ掻きちらす悪戯いたづらな爪の響——それが絶間もなくキキとキキと続いてくる。
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
そして遠慮なく膝を崩すような客に対する時の調子も、笹村が気遣ったほどには粗雑がさつでもなかった。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)
色々の思出を辿たどってみると、養父や養母にびるために、物の一時間もじっとしている時がないほど、粗雑がさつではあったが、きりきり働いて来たことが、今になってみると
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
新壁の隅に据えた、粗雑がさつな長火鉢の傍にぽつねんと坐り込んでいる母親の姿が、明け放したそこの勝手口からすぐ見られた。台所にはまだ世帯道具らしいものもなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
帳場前の廊下へ出ると、そこから薄暗い硝子燈籠のともれた、だだッ広い庭が、お庄の目にも安ッぽく見られた。ちぐはぐのような小間こまのたくさんある家建やだちも、普請が粗雑がさつであった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
職人達の口に、れ疲れた話声が途絶えると、寝不足のついて廻っているようなお島の重い頭脳あたまが、時々ふらふらして来たりした。がたんと言うアイロンの粗雑がさつな響が、絶えず裁板のうえに落ちた。
あらくれ (新字新仮名) / 徳田秋声(著)