端艇はしけ)” の例文
帆船端艇はしけを繰り廻し、思う所へ横付けにし、電光石火に仕事をり、再び船へ取って返すや行方をくらますということであった。
赤格子九郎右衛門の娘 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
土地柄として沼にも川にも沿岸の海にもわにが棲んで居て、一寸ちよつと端艇はしけが顛覆しても乗組人は一人ひとりも揚つて来ないのが普通なのに
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
フランスの軍艦は港から一里ばかりの沖に来て、二十艘の端艇はしけに水兵を載せて上陸させたのである。両歩兵の隊長が出張の用意をさせていると、軍監府から出張の命令が届いた。
堺事件 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
ぽうと云ふ空洞うつろ汽笛きてきの音が響いて、いつの間にか汽船が一艘黒い煙を吐きながら、近くの沖へ来て碇泊ていはくしてゐるのに気がついたが、間もなく漕ぎ寄つた一艘の端艇はしけに、荷物や人を受取つて
或売笑婦の話 (新字旧仮名) / 徳田秋声(著)
ところが同じこの夜のこと、旅装凜々しい一人の武士が、端艇はしけで海上を親船から、霊岸島まではしらせて来た。
前記天満焼 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
天鵞絨ビロウドを張つた真黒まつくろ屋形やがたの中に腰を掛けた気持は上海シヤンハイで夜中に乗つた支那の端艇はしけを思ひ出させた。狭い運河の左右は高い家家いへいへしきられ、前はやみと夜霧とで二けんと先が見えない。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)