突嗟とつさ)” の例文
すると父は突嗟とつさに振向きしなに人力車夫のうなじのところをつかまへて、ぐいぐい横の方に引いたから人力車がくつがへりさうになつた。
念珠集 (新字旧仮名) / 斎藤茂吉(著)
而して余が突嗟とつさ之を承諾したる当夜のこゝろざしならんや、だ「刑余の徒」たるの一事のみ、けいと余と運命をおなじふする所也
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
突嗟とつさに房一はその囁くやうな調子や眼つきから、練吉が何のことを云つてゐるのかを了解した。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
直造は、然し、突嗟とつさのうちに考へをまとめることができなかつた。彼はあの慇懃な荘重さをとりもどしてゐた。が、何となくしをれた所のある物腰で、房一の挨拶を受けたのだつた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)
如何どうした突嗟とつさの心の変化か、考へて見ても解らないの、矢ツ張り私の心が、うらみいかりに満たされて居たので、其れであゝした卑怯な挙動ふるまひに出たのですねエ——今朝からネ、一人で聖書を読んだり
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
それから、徳次をこの場から去らせても後で鬼倉の配下の者に狙はれるかもしれぬ、といふことを突嗟とつさに考へた。彼は腹をきめた。そして、相手の顔に目をつけながらゆつくりと答へた。
医師高間房一氏 (新字旧仮名) / 田畑修一郎(著)