穏当おんとう)” の例文
旧字:穩當
「いかにももっとも、当方にも間違いはあったが、女人が夜中男姿で歩くのも穏当おんとうとは言われまい。このままお引取下さるように——」
銭形平次捕物控:126 辻斬 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
穏当おんとうでないか知らぬが親も祖父も、みんな一度は通って来た関門であった。それがただ少しずつ濫用らんようせられていただけである。
こども風土記 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
自分のような弱い男を放り出すには、もっと穏当おんとうな手段でたくさんでありそうなものだと信じていたのである。
(新字新仮名) / 夏目漱石(著)
まさしく五母鶏ごぼけい二母彘じぼていの実を演ずるものにして、之を評して獣行と言うより他に穏当おんとうの語はなかる可し。
女大学評論 (新字新仮名) / 福沢諭吉(著)
関東方だの京師方だのと、妙な符牒ふちょうをつけている。どうも俺にはわからないよ。——と、こういうと穏当おんとうなのだが、ナーニ俺にはわかっている。だからいっそう眼が放されない
娘煙術師 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
お久美はつちのとの大駅土とこれも星の土に合っているが、ただ、おりんお滝のみは水星にもかかわらずひのと山中火と水を排して反性の火を採っている。これは穏当おんとうではない。
それはまことに穏当おんとうの解決であるが、あれほどに意気込んでいた兄の透がそれに対してなんの苦情も言わず、そのまま素直に承諾したのは、わたしにも少しく不思議に思われた。
深見夫人の死 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
無二斎の名は、十手術の達人として四隣に有名であったから、歿したのを知らずに、喜兵衛がここへ訪ねて来たものとすれば穏当おんとうである、少年の弁之助と試合ってもうなずける。
随筆 宮本武蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ウォレース、ル・キウ、オップンハイム、サックス・ローマーまでくらいに止めておくのが穏当おんとうではないかと思う。スリラアという言葉は常に必ずしもトムスンのようには使われていない。
探偵小説の「謎」 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
穏当おんとうのことと存じます。
創生記 (新字新仮名) / 太宰治(著)
「たとえばですね。今苦沙弥君か迷亭君が、君が無断で結婚したのが穏当おんとうでないから、金田とか云う人に謝罪しろと忠告したら君どうです。謝罪する了見ですか」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「やはり退去の前に、いちど信長公に御挨拶して去るのが穏当おんとうであろう。支度せい」
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何んと言う高雅な穏当おんとうな顔でしょう。一たんの怒を押えて、斯う清み切った眼を見開いた高城鉄也の顔を見ると、どんな恐ろしい写真があるにしても、此男を曲者と疑う気にはなれません。
女記者の役割 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
これを分解し、これを綜合そうごうして、同一物のある部分を各適当な主義に編入するのが穏当おんとうであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
例えばあの人は父に似ているとかまたは母のごとしとか云う方が虎のごとしと云うよりもはるかに穏当おんとうであります。立派な perceptual な叙述ができるはずであります。
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)