移転ひっこし)” の例文
旧字:移轉
『……しかと、わからんが、もう移転ひっこしの荷を、ぼつぼつ本所へ送っているのは事実だ。然し吉良父子おやこが移った様子はまだないらしい』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「僕は、なにしろ、かに缶詰かんづめで失敗したから、何にもない。洋服が一着あるのだけれど、移転ひっこしの金が足りなかったから、しちに入れてしまった。」
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
「何だねじゃないよ、さっき伯母さんが、ちゃんと近所へ御挨拶をして移転ひっこしをしておしまいじゃないか」
大菩薩峠:02 鈴鹿山の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
「タヌ君、いくらなんでもこの移転ひっこし荷物のままでは、この崖はのぼれない。この中にある雑品はいずれ僕が弁済することにして、とにかくここへ放棄するから悪しからず」
相手に軍法話、とっくりして見たいと思っていましたよ。それではお進めに従ってしばらくの間岩石ヶ城でご厄介になることにしましょうかな。……才蔵それでは移転ひっこしじゃ
蔦葛木曽棧 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
されば表通り軒並の茶屋はいずれも普請を終って今が丁度移転ひっこし最中さいちゅうと見えるうちもあった。
散柳窓夕栄 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
「サア上って下さい、移転ひっこし早々で取乱して居ますが、どうぞ二階へ」
誘拐者 (新字新仮名) / 山下利三郎(著)
城も城であるが、より以上、信長の性急な移転ひっこしで、目ざましく促進されたのは、新しい城下町の勃興ぼっこうだった。
新書太閤記:05 第五分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そんなことを思う傍らで、まだ移転ひっこしの日のつづきを思い出しているのだった。翌日に着いた泡鳴の荷物は、荷車に二台の書籍と、あとは夜着よぎと、鉄の手焙てあぶりだけだった。
遠藤(岩野)清子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
炯眼けいがんだな。……だが、その炯眼にしては、まるで無用な、時候見舞だの、移転ひっこしらせだの、質屋のものだの、つまらん物まで、ごったに交じっているじゃないか」
松のや露八 (新字新仮名) / 吉川英治(著)