硝子戸越ガラスどごし)” の例文
中野君は富裕ふゆうな名門に生れて、暖かい家庭に育ったほか、浮世の雨風は、炬燵こたつへあたって、椽側えんがわ硝子戸越ガラスどごしながめたばかりである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
すし香気かおりぷんとして、あるが中に、硝子戸越ガラスどごしくれないは、住吉の浦の鯛、淡路島のえびであろう。市場の人の紺足袋に、はらはらと散った青い菜は、皆天王寺のかぶらと見た。
南地心中 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
眼がめたら、昨夜ゆうべいて寝た懐炉かいろが腹の上で冷たくなっていた。硝子戸越ガラスどごしに、ひさしの外を眺めると、重い空が幅三尺ほどなまりのように見えた。胃の痛みはだいぶれたらしい。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
約束の女が私の座敷へ来て、座蒲団ざぶとんの上に坐ったのはそれから間もなくであった。びしい雨が今にも降り出しそうな暗い空を、硝子戸越ガラスどごしに眺めながら、私は女にこんな話をした。——
硝子戸の中 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)