しばた)” の例文
そうして上げて、貴方あなた、そうして上げて頂戴ちょうだい! と、私の方を向いている妻の眼が、しばたいている。牡丹ぼたんはもう散ったが、薔薇ばらは花壇一杯、咲き乱れている。
墓が呼んでいる (新字新仮名) / 橘外男(著)
今にも泣き出しそうにしばたたいている彼の眼を覗き込んで、Kは最後の宣告でも下すように、斯う云った。
子をつれて (新字新仮名) / 葛西善蔵(著)
彼女は唇を絶えずしめし、眼を異様にしばたたいて、その高まりゆく情熱から逃れようとしたが、無駄だった。
白蟻 (新字新仮名) / 小栗虫太郎(著)
そして骨と皮ばかりの細い手で、怖々軍曹の佩剣はいけんに触れ革帯にさわり、たくましい腕に、そっと手をかけた。が、その手の甲にはらはらと落ちる生ぬるいものに、ぎょっとして見えぬ眼をしばたいた。
雲南守備兵 (新字新仮名) / 木村荘十(著)
そして再び机の前に坐ると、眤と洋燈の火をみつめて、時々気が付いた様に長い睫毛をしばたいてゐた。隣室では新坊が目を覚まして何かむづかつてゐたが、智恵子にはそれも聞こえぬらしかつた。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
今にも泣き出しさうにしばたたいてゐる彼の眼を覗き込んで、Kは最後の宣告でも下すやうに、斯う云つた。
子をつれて (旧字旧仮名) / 葛西善蔵(著)