着更きがえ)” の例文
庭のおもてへ抛り捨てた御方は、気色ばんだ面を上げてあたりを見まわしたが、ふと壁の釘に掛けてある新九郎の着更きがえ、黒羽二重の衣類に目をつけて、手早く、それを自分の身に着け
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
飛脚は背後うしろから抱きかかえるようにして女に力をつけてやった。飛脚はまた女の背にあった包を解いたり、己の両掛の手荷物を開けたりして、その中から有りたけの着更きがえを出して用意をした。
鍛冶の母 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
この下宿へ移ってから、岸本は節子のために一枚の着更きがえを用意して置いた。彼女が谷中から通って来る途中の暑さを思う心から、特に女の身体に合うように仕立てさせて置いたものであった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
そこはうちのものの着更きがえをするために多く用いられるへやなので、箪笥たんすが二つと姿見が一つ、壁から飛び出したようにえてあった。千代子はその姿見の前に玩具おもちゃのような椀と茶碗を載せた盆を置いた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
着更きがえをしかけたところへ、静枝が名刺を読みながら来て
市川九女八 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)