真唯中まっただなか)” の例文
旧字:眞唯中
父のこの言葉ははっしと彼の心の真唯中まっただなかを割って過ぎた。実際彼は刃のようなひやっとしたものを肉体のどこかに感じたように思った。
親子 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
男は自分ひとりのような顔をしていて、裏にうらのある、そんな稼業かぎょうのものの真唯中まっただなかに飛んだ恥をらすようなことがあってはならぬ。
狂乱 (新字新仮名) / 近松秋江(著)
ところは太平洋の真唯中まっただなか、海のどよめきを伴奏ばんそうにして、映画幕は潮風にあおられ、ふくれたり、ちぢんだりしています。
オリンポスの果実 (新字新仮名) / 田中英光(著)
同時にばたばたと飛び立った胸黒はちょうど真上に覆いかかった網の真唯中まっただなかに衝突した、と思うともう網と一緒にばさりと刈田の上に落ちかかって
鴫突き (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
この不思議な飛行機は、宙乗りの人物を釣り下げた儘、乱闘の真唯中まっただなかを目懸けて、いよいよ低く舞い下ってきた。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
「まさか、奴、開演中の群集の真唯中まっただなかへ飛び込んだのじゃあるまいね。いくら何でも、そんな無茶はしまいね」
黄金仮面 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
まるで火山の噴火孔ふんかこう熔鉱炉ようこうろ真唯中まっただなかに落ちこんだのと同じこと。まばゆさに目をあいていることも出来ぬ。鼻をつく異臭にむせて、息も絶え絶えの焦熱しょうねつ地獄だ。
魔術師 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
「おや、この戦争の真唯中まっただなかだというのに、婦人が一体何を放送しているのだろう?」
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)
満洲事変や上海シャンハイ事変の、真唯中まっただなかこそ、高射砲や、愛国号の献金をしたが、半歳はんとし、一年と、月日が経つに従って、興奮からめてきた。帝都の防空施設は、不徹底のままに、ほうり出されてあった。
空襲葬送曲 (新字新仮名) / 海野十三(著)