目縁まぶち)” の例文
が容体をはなすと、甘木先生は僕の舌をながめて、手を握って、胸をたたいて背をでて、目縁まぶちを引っ繰り返して、頭蓋骨ずがいこつをさすって、しばらく考え込んでいる。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
奥の四畳半で、一ト捫着もんちゃくした後で、叔父の羽織がくしゃくしゃになって隅の方につくねてあった。叔母は赤い目縁まぶちをして、お庄が上って行っても、口も利かなかった。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
今日は麦酒ビールの配給があったと言って、交替に来た兵の中には、目縁まぶちを赤くしているのも居た。私が当直に立っているとき、交替時の直ぐ前だったか、緊急信が一通来た。私がそれを訳した。
桜島 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
叔母の母親は、ひとしきり仏の前へ行って来ると、ただれたような目縁まぶちを赤くして、茶のの方へ入って来た。そして母親と一緒に茶を飲んだり、煮物をつまんだりしていた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
斑点しみの多い母親の目縁まぶちが、少し黝赭くろあかくなって来た時分に、お庄の顔もほんのりと染まって来た。色の浅黒い、せぎすな向うの内儀さんは、膝に拡げた手拭の上で、飯を食べはじめた。
足迹 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)