皺苦茶しわくちゃ)” の例文
眼玉をいて、ばたきをこらえて見せる。目や鼻や口を、皺苦茶しわくちゃに寄せて見せる。長いベロを伸ばして、鼻の頭まで届かせて見せる——
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただ皺苦茶しわくちゃになった破れた紙片かみきれをボートルレに渡した。それは血染の襟巻が捨ててあったところに落ちていたものであった。
後で或る人があの日どうしてあんなに皺苦茶しわくちゃに昂奮していたんだと言ったから、くるまが衝突してそこで血の気をうばわれたのだと正直に答えた。
いくら景色がよくっても野だなどといっしょじゃつまらない。清は皺苦茶しわくちゃだらけの婆さんだが、どんな所へ連れて出たってずかしい心持ちはしない。
坊っちゃん (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
と取合う気色も見えぬに、茶一杯饗応もてなされぬ助役は悄然すごすごとして元し道にとってかえしぬ、正兵衛は後見送りて、皺苦茶しわくちゃの眉根をひそめ、ああ厄払い厄払い。
厄払い (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お前はこれからどうあっても、この皺苦茶しわくちゃ扮装なりのままで、三斎屋敷に駆け込まなけりゃあ駄目なのだよ。
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
皺苦茶しわくちゃな紙でも、のばして使った。舶載はくさい唐紙とうし一枚にめぐり会う時は、それへ筆を落すことを、恋人とちぎるように昂奮して、彼等は、詩を書いている、を描いている。
田崎草雲とその子 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
失敬な、——甘木さんへ行って聞いて見ろ——元来御前がこんな皺苦茶しわくちゃ黒木綿くろもめんの羽織や、つぎだらけの着物を着せておくから、あんな女に馬鹿にされるんだ。あしたから迷亭の着ているような奴を
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「袴は木綿もめんじゃないが、その代りもっと皺苦茶しわくちゃだ」
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)