白々しらしら)” の例文
それを運んできた運送店へ、夜の白々しらしら明けに一台の自動車がとまって、神谷芳雄の所書きを示し、これをすぐに届けてくれと依頼されたとのことである。
人間豹 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
尤も二時三時まで話し込むお客が少くなかったのだから、書斎のアカリの消えるのが白々しらしらけであるのは不思議でない。「人間は二時間寝れば沢山だ、」という言葉は度々鴎外から聞いた。
鴎外博士の追憶 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
祥瑞しよんずゐ江村かうそんは暮れかかつた。藍色あゐいろの柳、藍色の橋、藍色の茅屋ばうをく、藍色の水、藍色の漁人ぎよじん、藍色の芦荻ろてき。——すべてがやや黒ずんだ藍色の底に沈んだ時、忽ち白々しらしらと舞ひあがるお前たち三羽の翼の色。
動物園 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
日に一度は川口の船屋敷へ出張して上荷あげに積荷の宰領をしていたが、夏も終って、川口に白々しらしらと秋波が立つ頃になると、船溜ふなだめにいる船頭や水子かこが、このごろ谷津の斜面なぞえにあるお邸の高楼たかどのに、一晩中
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
夜の白々しらしらあけに、縁の戸を一枚はずして庭へ出ると、青蚊帳のなかに、読みかけた本を、顔の上に半分伏せたまま眠っている母を見ると、母も本は読みたいのだなあと、たいへん気の毒な気がして
かくて、夜の白々しらしらけに
私本太平記:04 帝獄帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)