用立ようだ)” の例文
すこしくらいなら、わたしが、ご用立ようだてをしましょう。そのかわり、いつでもこの時計とけいは、あなたにおかえしいたします。
般若の面 (新字新仮名) / 小川未明(著)
ところで、夫人ふじんむかへたあとを、そのまゝ押入おしいれしまつていたのが、おもひがけず、とほからず、紅葉先生こうえふせんせいれう用立ようだつた。
火の用心の事 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
所有主は八月にならないと東京を離れる事がむずかしいので、その前ならいつでも君方に用立ようだててよろしいと云った言葉を、はからず旅行中に利用する訳になったのであります。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
わたくしは今日こんにち父の跡を襲いで、留守居役を仰付おおせつけられました。今までとは違った心掛こころがけがなくてはならぬ役目と存ぜられます。実はそれに用立ようだつお講釈が承わりたさに、御足労を願いました。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
みずから進んで母に旅費を用立ようだった女婿むすめむこは、一歩退しりぞかなければならなかった。彼は比較的遠い距離に立って細君の父を眺めた。しかし彼の眼に漂よう色は冷淡でも無頓着むとんじゃくでもなかった。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)