物哀ものがな)” の例文
それは耳をそばだてて胡弓の声にきき入り、そののんびりしたような、また物哀ものがなしいような音色ねいろを味わっていた。木之助は一心にひいていた。
最後の胡弓弾き (新字新仮名) / 新美南吉(著)
最後に昨夜の月明げつめい何処どこからとも無く響くギタルのを聞いて寝たのが何だか物哀ものがなしかつたことを附記して置く。
巴里より (新字旧仮名) / 与謝野寛与謝野晶子(著)
物哀ものがなしいあの空の色、寒い風に吹かれながら上野の公園側を歩いて来た時は心細かったと書いてよこした。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
銀子はふと二日ほど前に新婚旅行先の飯坂いいざか温泉から来た、倉持の絵葉書がおもい出され、胸先の痛くなるのを感じたが、あの物哀ものがなしい狭い土地から足をぬいたことは、何といっても気持がよかった。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
重苦しい沈黙が物哀ものがなしい空気をはらんで、二人の間へ割り込んできた。
恐怖城 (新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
まだ赤ん坊だつた時分、お母さんのぬくとい懐中ふところに抱かれて、うとうとしながら聞いた、あの甘い物哀ものがなしい子守歌に、ふと行きあつたやうな気がした。
良寛物語 手毬と鉢の子 (新字旧仮名) / 新美南吉(著)